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■ストーリータイトル■
サーファイルの紅羽
■ストーリー概要■
サマフの来果(らいか・あなた)は自分に自信のない女の子。金の髪に赤の瞳と見た目の派手さのギャップに心を痛めている。勉学中心の学園『テオラ』に入学して数ヶ月。学校と寮生活にも慣れ、同室になった十歳の少女と親しくなった。紫亜は来果よりも五つも年下で、飛び級するほどの天才少女だ。紫亜の兄は来果の住む、平面惑星キラルの大地崩落を防ぐ星使い。星使いの能力は生まれ持った力であり、能力を持たない来果にとって、星使いは憧れの存在だった。
来果は紫亜の心づかいで星使い養成学園『ユラン』を見学できることになった。案内してくれたのはトーワの瀬巴留(せはる)と名乗る青年。来果は彼の、自分を子供扱いしない態度や、星を使う仕草などを目にし、初めて心がときめくのを感じた。
その時だった。来果に向かって、無数の紅い星が集まった。光に包まれる身体。洪水の如くあふれる赤い光の渦に、来果は気を失った。
次に目を覚ました時、間近で浮遊する紅星を見た。寄り添ってくる紅星に、来果は自分に星使いの能力が宿ったことを悟った。同時に、そばについてくれていた紫亜の言葉で、自分が『ユラン』の瀬巴留の元で、星使いの教育プログラムを受けることになった事を知ったのだった。
■プロローグ■
「いらっしゃい。お待ちしていましたよ。貴方が{mei}さんですね?」
目がチカチカした。
まるで緑の風みたいだと思った。
「私はトーワの瀬巴留(せはる)と申します。ここで教師のようなことをしています。今日は一日『ユラン』を案内させて頂きます。どうぞよろしく」
「は、はい!」
見惚れていたことに気づき、慌てて返事をした。
今日は星使いを育成する『ユラン』という学園を、友人と一緒に見学をさせてもらっている。星使いとはわたしの住む星「キラル」の、平面な大地の端が崩れるのを防いだり、修復する特殊な能力を持った人のことだ。
わたしは学園の説明をしてくれる彼の横顔ばかり見ていた。
「星使いの歴史は『ユラン』と共にあると言っても過言ではありません。各地に点在する学園へ優秀な指導員を派遣したり、支援に向かう。崩落の起こらない大陸の中央にあるからこそ、確実な育成ができるのです。そう言えば、{mei}さんは星使いを直に見たことがないそうですね」
「はい。わたしの故郷には星使いがいなかったので」
わたしの故郷も『ユラン』と同じで、田舎だけど惑星の中央にあった。
「では、後で星を扱っているところを見学しましょう。もう少しすれば演習のクラスがあるはずです。学園については一通り案内しましたが、何か質問はありませんか?」
「あ、あの……星って実際に見たことがないんです。星とどうやったら仲良くなれるんですか?」
「仲良くですか? 星とは互いに力を認め合い契約するもの。まるで友人を迎えるように思って下さるとは、{mei}さんは優しい方なんですね。同じように星を友人だと言った人を思い出しますよ」
少し事務的で淡々とした印象だった声が、暖かみのあるものに変わる。秀麗な笑みが振りまかれた。緩む口元、下がる目尻。
胸が痛い。
これって、もしかしたら――。
「ほら、近くにまだ契約されていない星が飛んでいますよ。そこに……」
瀬巴留さんの手がわたしの肩に触れた。電撃が走る。彼の指さす先に紅い星。そして、斜め下から眺める瀬巴留さんの顔がこちらを向いた。
「見えましたか? {mei}さん」
目眩だろうか。
これは恋だろうか。
胸が高鳴って心臓を締め付ける。視線が合う。恥ずかしいのに離せない。
世の中にある楽器が奏でる音のなかで一番高い音階が、胸と耳と頭のなかに響き渡った。
反射的に身を離した瞬間だった。瀬巴留さんが鋭く叫んだ。
「危ない! 伏せて下さい!」
切迫した声様。けれど、とっさのことで動けない。彼が紫亜を抱えるようにして地面に伏せさせたのが見えた。立ちすくんで見開いた目に、紅い光が飛び込む。あの星だ。さっきまですごく高いところで輝いていた星が、急速にこちらに接近していた。
紅い世界。光が視界いっぱいに満ちる。星は一つではなかった。無数の小さな星がどこからか集まってくる。空をうねりながら、密集してわたしへと向かってくる。言いようのない恐怖。
「いやぁ!」
思わずしゃがみ込んだ。紅い色。紅い耳鳴り。脳細胞の一つ一つまで染み込んでいく紅。無数の紅い星がわたしを取り巻いた瞬間だった。
緑の風が起こった――違う。風じゃない。あれは星が力を放つ時に描かれる光の軌跡。画像資料で見たことのある星の紋章現象だ。いつの間にか足下に円形の紋様が広がり、まぶしく発光してる。その光と影によって肌を刺す紅光が遮られた。
「瀬巴留さん!」
「伏せていて下さい。退けます」
肩越しに笑みを零す青年の瞳には、余裕があった。彼の腕がしなり、星が輝きを増す。放たれた力がわたしを最初に襲った大きな紅い星の光とぶつかる。光と光の交錯。体中の皮膚が刺すように痛んだ。体に染みこんだ何かがわたしのなかで暴れている。瀬巴留さんの後ろ姿。凛々しい横顔。背後から聞こえる紫亜の悲鳴。すべてが白いもやに隠されていく。
わたしが意識を失ったと知ったのは夕刻のことだった。
――ここは。
わたしは何を?
白い天井には影が伸びる。視線を横に向けると、夕間暮れの窓辺。友達の紫亜(しあ)が心配そうな顔でのぞき込んできた。
「よかった……。{mei}ちゃん目を覚まさないんだもん」
身を起こした。一瞬、肌が痛い気がして動きを止める。蘇ってくる記憶。紅い星に襲われたんだと思い出した。慎重に腕を伸ばしてみると、もう痛みはなかった。
「大丈夫、{mei}ちゃん。痛いの?」
「ううん、もう痛くないみたい。紫亜、ついててくれたの? ありがと」
「お礼なんていいよ。すごく心配だったんだから。瀬巴留さんも心配してたんだよ」
「瀬巴留さんも? そう……なん――」
紫亜に言葉を返そうとした時、視界の端を何かが横切った。反射的に首をねじ向ける。そこには星が浮揚していた。手の平より少し大きく、触ると熱そうな紅と金の光を放っている。
「なっ! なんでここに星があるの?!」
「{mei}ちゃん落ち着いて。瀬巴留さんから伝言があるの」
「それどころじゃない。どうして星が……わたしを襲った星がここにいるの?」
「瀬巴留さんの伝言はその星に関係することなの」
わたしは紫亜を凝視した。星はわたしの周囲を旋回し始めている。彼女が紡ぎ出す言葉をわたしは待った。
「{mei}ちゃんは星と契約したんだよ。星使いになったの」
意味が分からない。
わたしは星使いじゃない。生まれた時にその能力が無ければ、死ぬまで星使いになれないのが世界の決まり。そんな話聞いたことがない。でも、紫亜はウソをつくような子じゃなかった。
「信じられないのは分かる。でも本当なんだよ」
「わたしが星使い……」
茫然とするしかなかった。これ以上の驚きをわたしは今後することがあるだろうか。父や母になんて言えばいいのだろう。両親はそんなのきっと望まない。わたしなんかに星が扱えるはずがないじゃないか。憧れた星使い。一瞬浮かんだ淡い喜びは、未知への不安と自分への疑心、両親の不承顔が消し去る。
「だからね、{mei}ちゃんは『ユラン』で育成プログラムを受けることになるって」
わたしは紫亜の続ける言葉を、不安で押しつぶされそうな心で聞いた。穏やかな紅い光を放ち回り続ける星。唯一の救いは、『ユラン』には彼がいる。漆黒の髪と典雅な立ち姿が見られるかも知れない。ただ、それだけだった。