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■ストーリータイトル■
カリン・トリトニスの召喚記録
■ストーリー概要■(400文字以内)
それはとある大陸の片隅にある、決して国と言えるほど大きくはない……小さな小さな集落のお話。
厳しい環境に生きる人々に対し、彼らの神は一つの魔法を与えた。
それは時も場をも超越し、別次元から救済者を呼び寄せる術―――召喚。
神は『祈りを奉げ、自身らで助力を乞える相手を見つけ出すことだ』と、そう告げたのだ。
神から賜った召喚法によって、これまでにも賢者が、戦士が、精霊が……実に多くの存在が集落を訪れた。
農業、医術、治水、開墾、鋳造、衣服、その他諸々。異界より授かった知識と知恵は、もはや数知れない。
このまま集落が順調に成長していけば、国として名乗りを上げる日も、そう遠くはないことだろうと思えるほどに。
そして今日もまた新しく、召喚の儀を担う少女が選び出された。
その初々しい召喚師の名を―――カリン・トリトニスと言った。
■プロローグ■(5000文字以内が目安)
ゼグツィナ。それは異界へと続く不思議な門を有する、とある集落の名。
ゼグツィナの最も古き神殿『ウル』の最奥には“異鏡門”と呼ばれる神域があった。
人々はそこで神システィナに祈りを奉げ、そして自分たちに恩恵を与える存在を呼び求める。
場を越え、時を越え……異鏡門を通じて、ゼグツィナに異界の存在を呼び寄せる。
それは厳しい辺境に住まう彼らに、神システィナが授けた一つの魔法だった。
時には戦士が呼ばれ、時には賢者が呼ばれ、時には精霊が呼ばれ……人々に様々な知識や技法を伝授した。
そして今日もまた、一人の召喚師が神殿の奥にある異鏡門へと歩き進んでいた。召喚の儀を、執り行うために。
月の光を編みこんだかのような銀髪と、海のような碧さの瞳を持つ少女。
彼女の名は、カリン・トリトニスと言った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私は今、ウルの神殿の最奥に立っている。一人の召喚師として。
そして今から先達の召喚師に儀式の作法を習い、実際に異界の神々や賢者と邂逅するに至るのだ。
召喚師の訓練は自身の心身を磨くことと、異界の言語の習得が主。
前者は言うまでもなく、身も心も健やかにすることで、異界の存在に失礼がないように。
後者は異界の存在に自身の思いを伝えるために。私はそのどちらも真面目に、必死に学んできた。
しかし、実際にどのような方法で異界存在を召喚するのかは、その触りすら把握していない。
何故ならば、召喚法はこのゼグツィナにおける、最高の秘密。神に与えられた魔法。
召喚師の候補にも、おいそれと教えられることはない。
集落の長老と先達の召喚師たちに後継と認められ、
そして召喚の儀のために神殿の奥へとこうして赴いて……そこでようやく、先達から口頭で知らされるのだ。
そう言う意味では、召喚法を聞き及んでいない今の私は、まだ一人前の召喚師ではないのだろう。
(でも、半人前なのも、あと少し。私はもうすぐ、真の召喚師に成る)
私は眼前にたたずむ先達の召喚師{mei}が口を開くのを、ただただ待ち続ける。
彼女はどこか沈痛な面持ちで、私を見やってくる。その口は、いまだに開かれない。
彼女からすれば、私はまだまだ半人前なのだろうか?
本当に私に教えていいものかと、迷っているのだろうか?
そう不安が胸中に湧くけれど、私はそれを表情に出しはしない。
オロオロなんて、していられない。まだ異界に繋がる門を前にしたわけでもないのだから。
今はただ、沈黙する{mei}に合わせ、私もじっと無言で立ち尽くすだけだ。
『貴女は今から、この神殿の神域・異鏡門に進むことになります。
召喚の儀のためであれば、己の心をも捨てる覚悟がありますか?』
ようやく、{mei}が重い口を開く。
そこから零れ出る言葉は、集落内で普段使用されているものとは違う……異界言語だ。
私も彼女に合わせ、使用する言語を異界言語へと変える。
『はい。この身の全てを懸けて、異界の存在を召喚して見せます。このゼグツィナのために』
『好い返事です。そして、好い眼です。希望と自信に満ちた……私自身の幼い頃を思い出します』
先達者の{mei}は、今年で31歳となる召喚師だ。
私よりも15も年上の彼女が召喚の儀を行い始めたのは、今の私より幼い10歳の頃だと聞いている。
10歳から24歳までの14年間、彼女は異鏡門の前で、別世界の存在に対して祈りを奉げ続けた。
そして数々の精霊をこのゼグツィナへと惹き寄せたと言う。
中には善良とは言えない、イタズラ心に満ちた妖精を呼んだこともあるそうだが……。
全体的な功績を考えれば、そんなことは些細なことと言えるだろう。
そして召喚師としての役目を終えた彼女は、今日まで私たち召喚師候補の教師として活躍していた。
異界言語の読み書き発音から、髪の上手い手入れに至るまで、私は全てを彼女から学んだ。
つまりは10歳から今日まで、彼女はゼグツィナの未来ため、休まずに走り続けて来たのだと言っていい。
私はそんな{mei}に憧れを抱いている。
教師としての彼女は凛々しく、そしてとても頼りになる存在だったから。
だからこうして、{mei}の跡目を継げた事は、心底誇らしい。
{mei}によって呼び出された精霊や妖精の土着化のため、一時的に召喚が行われなくなってから……早くも7年。
召喚の儀を再開するのは、{mei}の弟子の一人であるこの私。とても、名誉なことだと思う。
出来うることなら、{mei}に負けないくらい多くの精霊を、賢者を呼び寄せたいものだ。
『最後にもう一度だけ聞きますよ、カリン。その心にある決意に、嘘偽りはありませんね?』
『ありません、我が師{mei}』
『そうですか。では、行きましょう。ゼグツィナはウルの神殿の異鏡門へ』
{mei}の言葉に頷き、私は足を一歩前へと踏み出す。
その瞬間から、私の召喚師としての時間が始まったのだ。
―――同時に、始まったのだ。
――――――私の後悔と苦悩と恥辱に満ちた時間が……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『では、まず服を召喚儀用の礼装に着替えましょう。記念すべき初回は何がいいでしょうかね?』
そう言いつつ、{mei}は異鏡門の隣の部屋へと私を導いてくれた。
その部屋の扉が開かれ、内部に保管された数々の『召喚儀用礼装』が、私の視界に入ってくる。
儀式に使用する礼装とは、一種ではないのだろうか?
本当に数多くの服が保管されている。
そして……室内にある礼装のどれもが、ひどく珍妙だった。
『あの、ちょっと質問をしても?』
『いいわよ? 何かしら、カリン』
『えっと、この服は何なのですか?』
『それはメイドさんセットね』
私が指で示す礼装の名称を、{mei}はこともなさげに言った。
『……こ、この妙にモコモコしたモノは?』
『猫耳セットね。貴女が持っているのは、その中の肉球グローブ』
『この紺色の、何だかピチピチしたやつは?』
『スクール水着よ』
『す、スクールミズギとは、何ですか?』
“メイドサンセット”や“ネコミミセット”なる礼服も意味不明だったが、これはことさら意味不明だった。
『スクールとは異界の教育機関を指す言葉。忘れたかしら? それはその機関で使用される服装を模したモノね』
『い、異界の賢者は、このような不可思議な衣服に身を包んで修練を積んでいるのですかっ!?』
『ええ、以前に召喚された賢者から、そう告げられたもの』
『…………あの、これを、礼装として私に着ろと?』
『異界の賢者を呼びたければ、異界の賢者の関心を惹く格好をする必要があります』
『確かに、人の視線を引き寄せそうではありますけれど!? 色んな意味でっ!』
淡々と告げてくる{mei}に対し、私は額に汗を浮かべた。
『しかし、本当にこれらの礼装で、異界存在の気を惹くのですか?』
『皆、やって来たこと。私も、私の先輩も、そのさらに前の召喚師も』
『でもでも! こ、コレなんて紐ですよ? 全裸より恥ずかしいと言うか!
そもそも何ですか、この卑猥な……礼装だなんて言えないような衣服は!
本当に着たのですか、こんなモノを!?』
たまらず、私は声を張り上げる。
なお、その時私が指差した先にあった礼装には『葉っぱ水着』と名前が書かれていた。
正直、ただの葉っぱだった。水着という単語は、別に要らないと思った。
木の葉3枚が紐で繋がり、三角形をなしている。ただ、それだけのモノだったのだから。
『異界の神話にも、こんな話があるそうです。太陽神が機嫌を損ね、洞窟に隠れてしまったと。
すると世界が闇に包まれてしまいました。大変ですね?
そこでその太陽神を呼び戻すため、魅惑的な衣装で舞いを踊った芸術神が存在したのだと。
偉大なるものを呼び寄せるのは、どこの世界でも美しい存在だと決まっているようですね。
誇りなさい、カリン。貴女は数々の礼装が似合うと、神を呼ぶ魅力があると認定され、この場にいるのです』
私も一人の少女だ。自身に魅力があると言われれば嬉しい……けれど、
それで葉っぱを3枚だけ身に着けろと言うのは、少しばかり納得がいかない。
私の召喚師として心身を磨いた日々は、何だったのだろう?
猫耳を頭に乗せるため? スクール水着を着るため? 葉っぱを胸に貼り付けるため?
『うぅ、何だか納得がいきません!』
『己を捨てると言ったでしょう? その身にあるのは、嘘偽りのない決意だとも』
『た、確かに言いました! 言いましたけど、でも……こんなのって!?』
『でもも何もありません。カリン、着るのです。ほら、脱ぎなさい! うりゃー!』
『ちょ、や、まっ! 引っ張らないで!? {mei}、目を! 目を覚まして!』
『思春期に私が味わい続けた恥辱、貴女も存分に味わうがいいわ!』
『八つ当たりじゃないですか、それ!』
召喚師カリンは、異界から伝授された儀式礼装に身を包み、別世界へと繋がる異鏡門の前に立った。
――――――と、そう言えば聞こえはいいけれど、実のところ……やたらと胸が開いて、
スカートの短い黒っぽい衣装を着込み、顔を真っ赤にして異鏡門の前でもじもじとするしかない私だった。
これからどうなるのだろうか、私は。
そう考えて口を閉ざす私に対し、{mei}はあくまで軽やかに言葉を紡ぐ。
『あぁ、忘れるところだったわ。カリン、これを』
『何ですか、この書は……』
『平たく言えば日記帳ですね。儀を行い、その記録をつけることも召喚師の仕事。それが後世の資料の一つとなるのです』
『…………愚痴だらけになりそうです』
『構わないわよ? 私も一応、チェックを入れますから。まぁ、とにかく頑張るのよ、カリン』
そう言い、{mei}は私の肩に優しく手を添えてくれたのだった。
しかし、私の心の中には、羞恥と不安しかないのだった。
……もう、お家に帰りたい。