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■ストーリータイトル■(20文字以内)
ここが僕らの新天地?



■ストーリー概要■

 永い騒乱とそれに付随する深刻な汚染により、いつしか荒廃し切ってしまった母なる星。
 人々は死した星から宇宙へと飛び出て新天地を求め……幾星霜を重ね―――……。

 ある日、宇宙を旅する一族の末裔である{mei}は、新天地となる星の調査を任されることになった。
 星の上にはすでに先住民がいたのだが、 一族は過去の失敗に学び、
 高度な技術による侵略ではなく、緩慢な融和政策を採ることにしたのだ。

 果たして新たな星の上で、自分たちは現地の人々と平和に生きていくことが出来るのか?
 その答えを見つけるために先行して星に降り立った{mei}は、
 現地の少女ミリシャ・レヴィスと親交を深めていく。

 ゆっくりとだが、確実に{mei}は現地の人々の輪の中へと……星の中へと溶け込んでいく。
 順風満帆。このまま自分は、自分たち一族は、この星の上の人々と平和に生きて行ける。

 そう、{mei}は思っていたのだが……。
 


■プロローグ■

 その日、ミリシャ・レヴィスは自身の住まう集落の南方にある森を探索していた。
 目的は傷によく効くとされる薬草の収集であり、眼の良い彼女の得意とする仕事だった。

「んっ、また発見です。今日の私は冴えてるかも……」

 さらりとした白金の髪をかき上げながら、ミリシャはそう呟く。
 ちょっとした嬉しさと達成感からか、くりくりとしたその瞳も、いつも以上に輝いていた。
 彼女は自身の足元に多い茂る薬草から、特に葉を多くつけたものだけを摘み取っていく。
 医者や医学などと言う存在が確立されていない、未開の土地。
 そんな世界に住む彼女とその集落の人々にとって、薬草は生命線だった。

「ふぅ~、順調ですね」

 木々の隙間から太陽の光が零れ、彼女の周囲を照らす。
 夏の陽光。それは人の目には強すぎる眩しさだが、ミリシャはフード付きのローブを着込んでいるので問題はなかった。
 なお、そのフードにはケモノの耳を模した装飾と木製の鈴があしらわれていた。
 どこかコミカルな印象を与える衣装だったが、しかしそれは彼女が生まれた集落の民族衣装の一つでもあった。

 鈴の音は森の獣の接近を遠ざける。
 不意に獣と遭遇してしまった場合でも、耳を模した装飾がヒトを獣に見せてくれる。
 つまりは襲われる可能性が減ると、そう古くから信じられてきたのだ。
 ついでに言えば、彼女は森に入る前に虫除けのお香を身体にまとわせてきた。
 これで蜂や蛇に狙われる心配も、まずないと言える。

「ふーふふーふーふーふーん♪ ふーふふーふーふーふーん♪」

 とにもかくにも、ミリシャは実に暢気な表情で、薬草摘みに精を出していた。
 彼女の動きに合わせて、カロンカランとフードの鈴の音が鳴った。

 いつもどおりの、薬草摘み。危ないことなんて、何一つない。
 そう安心しきっていた彼女は……気づかなかった。
 自身の背後に、何かが近づいていることを。
 大きな体躯と口元の牙が恐ろしい、何かに……。

 もっとも、その瞬間に自身の背後に接近する何かに気づいたとしても、
 逃げ切ることが出来たかどうかは分からないが。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 あの呼び出しは、実に唐突に僕にもたらされた。
 あの日あの時、僕はダラダラと自室のベッドに寝転がっていたんだ。
 何故かと言えば、つい1時間ほど前まで船外センサーの補修作業を行っていたからさ。
 耐熱・耐圧・対放射線加工の施された、総重量が20キロを超える船外活動服を着込んでね。
 数ある船乗りのお仕事の一つだよ。

 船。そうは言っても、海上や深海を進みいく船じゃない。進むのは、星の海。
 僕らは宇宙空間を漂う船に住まう民なのだ。もう何世代も前から延々と長きに渡って、ね。

 住居である船の手入れは、当然住む者の義務だった。だからまぁ、別に補修作業そのものに文句なんてない。
 センサーがイかれてしまえば、船体に不備が出ても気づくことが出来ないかもしれない。
 例えば、小惑星が偶然船体の特に脆弱な部分に衝突して、そこから貴重な空気が漏れ出す……とかね。
 あるいはもっとフェイタルな事態が起こる可能性もある。

 だから僕は頑張って補修作業をしたんだ。
 面倒だからと作業をサボった馬鹿なヤツらの分までね。
 僕がすぐ請け負うから、他の人が気楽にサボるのかなぁ?
 あるいは、うっかりカプセルの服用量を間違えているとか?
 限りある船内では欲を抑えなければならない。例えば、食欲とか……性欲とか。
 だから抑制剤を飲むのだけれど、それも分量を間違えると、人を無気力にさせると言うし。

「大地に足をつけていれば、保守も薬も必要ないのになぁ」

 小さな岩石は地表に衝突する前に、大気圏で燃え尽きる。
 仮に隕石となって地表にぶつかったとしても、別に空気がどこかに漏れ出すこともない。
 そしてその環境は、人の保守を必要としない。人の生まれた星という場は、そんな素敵な環境らしい。

「まぁ、それは当然のことなんだろうけど。そうじゃなかったら、人なんて生まれないはずだし」

 僕らの母なる星は、もうとても肉眼では見ることが出来ない位置にある。
 僕の寿命分の時間を帰還に費やしたとしても、まずたどり着けないだろう。
 それだけの時間、この船はずんずんと進み続けてきたらしいのだ。何もない宇宙空間を。
 母なる星から一番近い、自身たちが生身で生存可能な星を目指して。
 ……母なる星のすぐ隣の星へと移り住んだ一族も、いたみたいだけれどね。大気もないのに。
 穴を掘ってコロニーを建設する計画だったそうだけれど、今頃どうしているのやら。

 つまりは、近くの荒廃した環境で我慢するか、まだ見ぬ希望の楽園……かもしれない世界を目指すか。
 その選択で、僕らの系統は後者を選んだわけだ。冒険心というか、開拓心溢れるご先祖様に乾杯。
 でも、そんな無茶をする必要を生み出したご先祖様のことを、出来れば一度はぶん殴ってみたいね。

 大規模戦争だとか、強引な資源開発による環境の汚染だとかで、
 当初は人の住みやすい素敵な空間だった大地が、いつの間にか魔境と化していたのだとか。
 ホント、何をやってるんだろうね、我が先祖は。

 さて―――ここいらで、話を最初に戻すんだけれど。
 僕は船の統括者である“船長”の部屋に呼び出されていた。
 正直、いきなり船長から直々に呼び出される理由が分からない。

 僕は一般人。仕事と言えば、先にも言ったように船体保守を主とした肉体労働。
 船長とは言わば、僕らの世界の王。一般人が謁見する機会なんて、まずないってわけだよ。普通なら。

 むぅ……僕は何か悪いことをしただろうか?
 これでも日々、真面目に生きてきたつもりなのだけれど。
 あぁ、補修作業で何か失敗してしまったのだろうか? 自分でも、気づかないうちに。

 船長室に到るまでの道のりで、僕の胸中は不安で一杯になった。
 だから扉を開けると同時に、僕は華麗にドゲザをした。
 ドゲザ。それは古来から伝わる正当な謝罪のポーズ……らしい。

「申し訳ありませんでした! 何か不備がございましたか! お願いですから、宇宙漂流の刑だけはお許し下さい!」
「いや、落ち着け、{mei}。頼むから顔を上げてくれ。何故いきなり土下座なのだ?」

 しっかりと名前を呼ばれた以上、手違いや人違いでもないだろう。
 やはり船長は間違いなく、この僕を呼び寄せたのだ。
 でも、呼び出される心当たりは、どう考えても欠片も思い当たらないわけで。
 落ち着けと言われても……やっぱり内心ビクビクですよ?

「あの、だって、僕なんかが船長に呼ばれるなんて、これはもう、最後通牒とか言うヤツかなぁって」

 僕がゆっくりと顔を上げると、船長は苦笑を浮かべていた。

「いやいや、そんなことはない。君は実に真面目に働いてくれている。
 どうやら少し早とちりなところがあるようだけれどね?
 まぁ、そこは愛嬌があって良いということにしておこう」
「……えと、あの、お、お騒がせしました?」
「まぁ、構わんがね。用件も言わずにとにかく来るように命じたのは私だからな。
 何か好くない話かと恐れるのも仕方ない。次からは気をつけることとしよう」
「あの、じゃあ……今日は僕にどんな用件なんですか?」
「すでに十分に驚いたようだから、こう言うのもなんなのだが。{mei}、聞いて驚くなよ?
 なんと我々はすでに移住可能な星の目の前にいるのだ。我々は、この船から出ることが可能となる」
「―――へ? す、すごいじゃないですか! 星の大地に降りられるんですか!」

 肉眼でその星の全容をはっきり捉えることは、さすがにまだ不可能だ。
 しかし船をしばらく全速前進させさえすれば、もうすぐにその威容を見ることの出来る距離に、僕らは来ているらしい。

 僕は各種の映像やゲームなどと言う、仮想現実でしか知らない星と大地に思いをはせる。
 土。水。空。雨。虹。どれもこれも、きっと素晴らしいのだろう。
 近々それらを実体験できるだなんて、僕らの世代はなんて幸運なんだろう?

「僕たちは、新しい大地に降り立てるんですね! こんなに嬉しいことは………………あれ?」
「どうかしたかね、{mei}?」
「あ、あの? どうして僕に言うんですか? 皆に伝えないで、どうして僕だけに?」
「はっはっは。君は話が早くて助かる。実は君にはその星に先行して、ある任務を頼みたい」
「……やっぱり何かあるんですね。でも、どうして僕なんですか?」
「君が善良で真面目だからだ。他者の嫌がる労働も、率先してこなしているようだしね?
 さて、そんな優秀な君に任せたい仕事なのだが……」

 僕は口をはさまずに、とりあえず耳を傾けることに専念した。
 別に自分を優秀な人間だとは思っていないから、褒められるのはくすぐったい気分だったけれど。

「実はその星には先住民がいてね。文明レベルは我々よりもはるかに下だ。王制を布いているレベルで最高位だからな」

 王制と言うと、剣とか馬とか騎士とかが世界を歩き進むような感じだろうか?
 僕はふとファンタジー系の物語に登場する世界を頭の中にイメージした。
 少なくとも、レーザー銃やビーム刃は登場しない世界観だろう。

「はてさて、我々はどうするべきだろうか? 先住民を殲滅するべきか?
 いいや、我々は平和的で紳士的な存在であるはずだ。可能な限り、穏便にことを進めたいと思う。
 そんなわけで君には現地に先行し、我々が上手く新天地に融和するための方法を探ってもらいたい。
 現地で生活すれば、我々が今後どのように星の上で生きていけばいいかの実感が得られるだろう。
 可能であれば、現地人と親密な関係を築き……まぁ、何なら子供の一人でも作ってくれたまえ。
 なぁに、赴任に当たって、身体強化と遺伝子調整は行う。子作りに問題はないぞ? どんどん作りたまえ」

 笑いつつ言う船長に対し、僕は無言だった。
 自分が選ばれた理由が、そこはかとなく理解出来たから。

 超遠距離から星の表層の調査は続けているけれど、実際に現地に赴いてみれば、色々と問題に遭遇するだろう。
 それこそ予見出来なかった風土病にかかり命を落としたり、あるいは現地人に殺されたり……。
 そんな未開の星に将来有望な人材を送るのは気が咎めるから、下っ端の肉体労働者である僕が選ばれたのだろう。
 そして、しばらく様子見をさせると。
 …………うぅ、不安だ。って言うか、子作りって何さ? いきなりそんな事を言われても、その……困る。

 沈黙する僕に対し、やはり船長は気楽に笑いつつ話を続ける。

「混ざり合って、融和し合って行けるのならば、それに越したことはないだろう。
 いきなりこの船で降り立って、あの星の環境を破壊してしまうのは、将来的に考えても下策だ」
「あの、もしも行ったら……ぼ、僕はもう、この船には帰ってこられないんですか?」
「いや、通信機は持たせる。何か相談事が発生したり、本気で帰りたくなった場合は、こちらに呼びかけなさい。
 まぁ、きっと大丈夫だ。君はあちらで上手くやっていける。自信を持て、{mei}」
「そ、そうでしょうか?」
「それとも、星と大地という仮想現実でしか知らない世界に行けると言うのに、君は辞退するかね?」
「―――それは……い、いいえ! 行かせて下さい! 僕、行きます!」

 不安はあったけれど、しかし『これは貴重なチャンスなんだ』と思うと、
 僕は船長の言葉に対して首を左右に振ることなんて出来なかった。
 冒険心に溢れるご先祖様。僕もその血を確かに継いでいるみたいだ。

「そう言うだろうと思っていたよ。では、頑張ってくれたまえ。
 まぁ、まずは知識や技術の詰め込みと装備の確認からなのだがね」

 船長のその言葉に、僕はゆっくりと静かに頷くのだった。

 こうして僕は、星に降り立つことになったんだ。
 胸いっぱいに、希望を持って。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――――――そして、ついにその日がやって来た。
 船から星の上に転送された僕は……延々と森の中を彷徨っていた。
 木々が鬱蒼と覆い茂っている空間は、船生まれの僕にとってはすごく物珍しい。
 湿気を肌で感じる森は、歩き進むだけでも本当に楽しい。

 ………………数分で飽きるけれどね。

 葉の緑色、幹の茶色、そして空の青色。その他のアクセント程度に見える違う色。
 最初は目にしていて面白かったけれど、1時間以上も見続けるハメになれば、もう目新しさなんてない。

 早く森を抜けたいなぁ。

 つらつらと胸中で文句を並べつつ、僕は歩き進む。
 身体強化処置は受けているし、それに日々真面目に船外労働をしていた僕だ。
 もう歩けない……なんて弱音は吐かないけれど、さすがにちょっと一人で森を進み続けるのは退屈だ。

 はぁ~。いつになったら人に会えるんだろう? 現地民の集落の近くに転送したって言う話だけれど、
 未だに僕は人影を目にしていない。うぅ、転送ミスとかじゃないだろうね?

 まず最初に接触するのは、小さなコミュニティーからって言われたけれど、
 人の中に溶け込むことを考えたら、この星で最大の街とかに行った方がいいんじゃないかな?
 ほら、小さな集落は排他的だって、古来のテキストにも書いてあったそうだし。

「まぁ、どれだけ文句を言っても、結局は先に進むしかないんだけどね」

 ―――やがて、僕は森を抜けて川に達した。
 水がさらさらと流れる光景は、とても綺麗で神秘的だった。
 水を口にしたわけでもないのに、僕という存在は潤いを取り戻す。

 まぁ、取り戻したはずの潤いは、すぐに蒸発したんだけれどね。
 何しろ川の対面には、また森が広がっていたから。

 はぁ、また森を進むのか。
 そう僕が嘆息した時だった。
 川の対面の森の中から、女の子の悲鳴が聞こえたんだ。

「えっ? い、いやぁーっ!? た、たすけ……っ!」

 やった! 人の声だ―――って、喜んでる場合じゃないよ! 悲鳴だよ!

 僕は駆け出した。
 何が起こっているのかは分からないけれど、とにかく誰かが困っていることは確かなようだったから。
 そして僕は、大きな現地獣に襲われている一人の女の子・ミリシャと出会ったんだ。

 身体強化と持たされた剣のおかげで、その獣はあっさりと倒すことが出来た。
 けれど、むせ返るような血の匂いをかいで、僕はこう思ったんだ。
 ここは希望の世界なんかじゃなくて、意外と怖い世界なのかもしれないって。

 僕は、ちょっとだけ船に帰りたくなった。
 それは新天地に赴いて、半日も経たないうちに湧いた思いだった。

 この先大丈夫なのだろうか、僕は……。