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■ストーリータイトル■
三崎夕陽の恋愛戦略
■ストーリー概要■(400文字以内。ユーザー向け)
『アンタ、まともに恋愛なんて出来ないんじゃない? 一生』
からかい混じりに姉にそう言われた少女・三崎夕陽は、
『あたしだって彼氏くらい、すぐにゲットしてみせる!』と意気込んだ……のだけれど。
「なぁ、あたしと付き合ってくんないか?」
「分かった。いいぞ、ゆー」
「――――――……へ? え?」
「だから、OKだ」
「え、あっ、そ、そうなのか? いいのか?」
「こんな俺だが、ゆーの彼氏として恥ずかしくないように頑張るさ」
「ちょ、ちょっと待て! とりあえず言ってみただけで……そ、そんな即答されても、困るだろ」
「ふぅん? お前は俺の男心を弄んだわけか。深く傷ついた。慰謝料を要求せざるを得んな。カフェオレおごれ」
「お、お前の方こそ、真面目に答えてないだろ!?」
彼女は今日もバイト先のコンビニで、{sei}{mei}にからかわれるのだった。
…………彼女の{sei}陥落に向けた努力が、今始まる。
■プロローグ■
午後6時03分。小さな山の裾にあるコンビニエンスストアの店内にて、一人の少女が黄昏ていた。
時刻通りの雰囲気……いや、あるいはそれよりもさらに暗いかもしれない。
彼女が口を開けば、ふぅっと小さな嘆息だけが零れ出る。
それはどこか、自身の余命について思い悩むような薄幸さを感じさせた。
(って、ゆーはそんなガラでもないだろうに。いつものテンションはどこに行ったんだ?)
どんよりとしている少女―――三崎夕陽にカウンターから視線をやりつつ、少年―――{sei}{mei}は首を傾げた。
(まぁ、どんな理由があるにせよ、あの態度は減点だな)
夕陽がただの客であるのならば、何ら問題はない。思う存分、商品を眺めつつ黄昏ていればいい。
しかし、彼女は{sei}{mei}と同じくこの店のアルバイトなのだ。しっかりと自身の仕事をこなしてもらわなければ困る。
あとでフォローをしなければならないのは、同じ時間にこうして働いている自分自身なのだから……切実に。
そう考えた{sei}{mei}は、夕陽に話しかける。彼女の真似をするように、嘆息混じりに。
「ったく。おい、ゆー?」
「んぁ? いらっしゃいましょ!?」
「いや、誰もいらっしゃってないから。てか何だよ、ましょって」
ぼうっとしていたのだろう。突然の呼びかけに、夕陽の返答は実に間の抜けたものだった。
「何で元気ないのか知んないけど、シャキッとしろよ。お客にマイナスイメージだ」
「むぅ。そんなに気にしなくても、客なんかほとんど来ないだろ」
夕陽が言うことも、もっともだった。何しろ二人が働くのは、片田舎の山裾にあるコンビニなのだ。
同じ時間帯の都会の駅前の大手コンビニと比べれば、その客足は半分……あるいは3分の1以下だろう。
コンビニというよりは、ちょっと立派な駄菓子屋か雑貨屋とでも呼ぶ方が、しっくり来るかもしれない。
まぁ、片田舎らしい周囲の雰囲気には、見事に溶け込んでいる店ではあるのだが。
「むしろ、だからこそだろ。たまに来る客に悪いイメージを持たれたら、さらに客足が遠のくんだぞ?」
「お前、無駄に真面目だな。たかがバイトなのに、そこまで気にしなくてもいいじゃねーか」
「それこそ馬鹿か。考えてもみろ。今以上に客が来なくなったら、多分潰れるぞ? そしたらどうなる?」
{sei}{mei}はこれ見よがしに肩をすくめつつ、話を進めた。
「俺のバイト先がなくなるわけだ。家と学校の途中にある、ちょうどいい位置のココがだ。お前のせいで」
「あたしの落ち込み一つで潰れるなら、どうせ先は長くねーよ。人のせいにすんな」
「いや、お前が水着で接客してみろ。多分、客足はそこそこ増加するぞ? お前の頑張り一つで、店は持ち直すわけだ。
メイドカフェとか言うのがあるんだ。水着コンビニがあってもいいだろ。うん、意外とTVの取材とかも来るんじゃね?」
「来てたまるか! 何であたしがココの存続のために、そんな恥をかかなきゃなんないんだ! 馬鹿!」
「あぁ、そうかい。そりゃ、すまんかったな」
短い会話ですっかりと普段通りのテンションに戻った夕陽を見て、{sei}{mei}は苦笑する。
やはり、彼女には暗い雰囲気は似合わない。さして長い付き合いでもないが、しみじみと{sei}{mei}はそう思った。
まぁ、プリプリと怒っている今の彼女を見ると、先ほどまでのどこか儚い表情も少しばかり恋しい気がしたが……。
店内にちょっとした沈黙が舞い降りる。
先に夕陽が言った通りに、客が来店する気配はない。
そこはかとなく居た堪れない気分になった{sei}{mei}は、再び夕陽に話しかけた。
「んで、今日は何で暗かったんだ?」
「言いたくねー。だから聞くな。気にすんな」
「気にせんで欲しいのなら、もう少しくらい取り繕えよ。これ見よがしにため息を吐いてないで」
「…………ため息吐いたつもりは、ないんだけど。あたし、そんなにどんよりしてたか?」
「してたな。機嫌は過去最低値を更新って感じ。気にしないヤツは鈍感すぎるぞ、絶対」
「何があったのかって言えば……つまんねー話。ちょっと告白して、振られた。ただ、そんだけ」
「そうなのか」
口調は荒々しいし、行動そのものも割と雑だし、背は特に高くも低くもないし、同様に胸も人目を引かないサイズ。
さらに髪も『長いと手入れがメンドー』の一言で、短く切り揃えているだけだし、もちろん化粧っ気は欠片もない。
女を捨てているとは言わないが、どこかあか抜けず恋愛に縁がなさそうな三崎夕陽。
しかしそんな彼女も、一応は年頃の乙女だったということか。
まさか告白して振られると言う、甘酸っぱい恋愛イベントを体験してきたとは……。
{sei}{mei}は内心、娘の成長を喜ぶ父親のような心境になった。
昔はヤンチャ坊主と区別のつかないような子だったのに、すっかり女の子らしくなって……といった感じである。
もっとも{sei}{mei}は夕陽と昔なじみでも何でもなく、知り合ったのはコンビニのバイトを始めてからであり、
まだ一年未満の付き合いしかないのだが。
「もしよかったら、相手の名前を聞かせてくんないか?」
「あー? 無理。覚えてないし」
「自分を振った相手の名前は忘れたってか?」
「んにゃ、違う。今日だけで30人近く告白したしな。さすがにいちいち覚えてらんねー」
どうやらごく普通の甘酸っぱい恋愛イベントなどではなかったらしい。
{sei}{mei}は軽く精神的な頭痛を覚えながらも、夕陽に問いかけた。
「……ゆー。お前は何を言ってるんだ? 一日で30人って、意味が分からんぞ?」
「とりあえず当たって砕けろの精神で告白しまくって、全部粉砕されたんだよ」
「いや、何がとりあえずなのか、マジで理解出来ん。最初から話してくれ。順序良く」
「むぅ。あんまり話したいことじゃないんだけどな。めんどくさいし」
短く渋るものの、しかしやはり誰かに話を聞いて欲しかったのか。
夕陽は途切れることなく事情の説明を始めた。気だるそうな態度のまま、最後まで。
まず、彼女……三崎夕陽には、大学生になる姉の朝香がいる。
そして姉の朝香は今、新しく出来た恋人と一番お熱い―――と言うか、周囲からすれば暑苦しい時期にさしかかっているらしい。
ホラー映画的に言えば、若さゆえの情熱を冷まそうと人気のないところに行き、怪物の餌食になる……まさにその片割れ状態。
何しろ相手は今時の大学生なのだ。一昔前の“純愛”と言えるようなピュアな恋愛を楽しんでいるはずもなく―――。
繰り返すようにアレやコレやと語られる姉のどこか生々しい惚気話に、夕陽は確実にイラだちを溜め込んでいたそうだ。
まぁ、身内が恋に焦がれている姿など、そうそう面白いはずがない。惚気話ともなれば、なお一層である。
そして数日前のこと。
不意に朝香の発した同情混じりの言葉で、ついに夕陽の堪忍袋の緒は引きちぎれたのだそうだ。
朝香曰く―――。
『そう言えば、アンタは私と違って彼氏いないのよね? 前にいたことあったっけ? ないわよね?』
『まぁ、仕方ないわよねー。むしろアンタは、彼氏より彼女作ってる方が似合いそうだし?』
『夕陽って言うか、雄飛よね。生まれ方を間違えたって言うか。何か可哀想……』
『アンタ、まともに恋愛なんて出来ないんじゃない? 一生』
「んで、あたしはこう言ったわけだ。うっせー、余計なお世話だ。その気になれば恋人の一人や二人くらいって」
「一人や二人って……恋愛経験ゼロのくせに、最初から男を両手で手玉に取る気か? 目標が高すぎるだろ」
「揚げ足取んな。とにかく、朝姉に宣言しちゃったわけだ。今月中にあたしの彼氏を紹介してやるって」
「その焦りから、とりあえず誰でもいいから彼氏にでっち上げようとして、今日だけで30人に告白か」
「さすがに一人もOKが出ねーとは……あたしもヘコんだ。あたしって、そんなに駄目だったのか」
日中の校内での一連の出来事を思い出したのか、夕陽は苦笑した。
(駄目じゃねーんだろうけどな。いやまぁ、ある意味ダメダメなのか)
胸中でそう考えつつも、{sei}{mei}は今は何もフォローを言わずに、夕陽に話を進めさせた。
男子30人に告白。詳しく聞く必要がないほど、その経緯は割りと単純なものだった。
朝のおしゃべりで彼女の状況を知った友人一同が協力を提案。
同学年の各クラスにおいて現在フリーの男子生徒を調べ上げ、さらにはその中から最低基準を満たす者を選出。
そのリストをさくさくと作成し、夕陽に総当り戦―――つまりは順に告白するように促したのだとか。
何とも間違った方向への行動力である。
普段の夕陽が暴走特急的な勢いのある少女だけに、友人一同も似たようなものなのかもしれないが。
あるいは『まさかホントにするなんて……』という具合に、最初は皆ただ遊び半分だったのかもしれないが。
(まぁ、どーにしろ実際に行動に移した時点で、アホだよな)
話し終えて再びどよーんと気落ちし始めた夕陽に、{sei}{mei}ははっきりとこう言った。
自身がたった今思ったことを。それはもう、ズバッと。
「アホか、お前。ついでに友人一同も」
「あ、アホとは何だ、アホとは!?」
「いや、馬鹿でも間抜けでもオタンコナスでも、何でもいいんだけどな?」
「前言撤回はなし? 挙句に野菜扱い!?」
「俺に噛み付いてないで、よく考えてみろよ。もしも自分が同じことされたら……って」
{sei}{mei}は夕陽の肩に両手を添え、演技かかった調子で言葉を紡いだ。
「ゆー。俺、どうしても今月末までに彼女が欲しいんだ。もうお前でいいし、付き合ってくれ」
「ふざけんな、この野郎」
「……だろ? 魂も愛も恋も入ってない告白で、誰がOKするんだよ」
「確かにその通りなんだけど。いや、一人くらいはいるかなーって」
「下手すると、罰ゲームか何かでお前が告白して回ってるって思われる状況じゃねぇか?」
女子には女子の情報網があるように、男子には男子の情報網がある。
『三崎夕陽が告白して回っているけれど、あれは遊び。本気にしたヤツは馬鹿』と、
そのくらいの話は早々に出回っていたことだろう。ならば真に受ける人間がいなくても当然だ。
何しろ、対象者は30人。告白に応じる可能性があったのは、せいぜい最初の5人程度だろう。
「お前が古き好き漫画的な学園のマドンナなら、そりゃ彼氏になろうってヤツは多いだろうさ。だが、現実を見ろ」
{sei}{mei}は夕陽の胸を指差しながら、静かに言った。
「溢れんばかりの巨乳でもなければ、綺麗な美乳でもないし、可愛い微乳でもない!」
「む、胸だけで評価すんなよ!? 他にもあるだろ、色々と!」
「んでもって、その口調。エレガントさが足りないと言うか、欠片もない。女の子としてそれはどうよ?」
「い、いいだろ? ヘンに気取っても、あたしには似合わないってば! 今さら変えた方が嘘っぽいだろ?」
「ついでに背も小さくて可愛いわけでもなければ、高くて格好イイわけでもなく、あくまで普通」
「……いいじゃん、普通でも」
「普通ってのは、悪く言えば中途半端なわけだ」
「う、うううっ! うっさい! 人を容姿だけで、アレコレ言うな!」
「内面を評価しようにも、ゆーはなぁ。こうしてすぐ怒鳴るし?」
「ぐっ……!?」
「挙句に、相手は誰でもいいと。つまり、別にお前のことは好きでも何でもないけど、
彼氏が出来たって言う事実が欲しいからあたしに協力しろと? そりゃ、当たって砕けるわ」
次々と{sei}{mei}に辛口なコメントをされ、夕陽の目がわずかに潤んだ。
「んじゃ、お前もあれか。朝姉と同じく、あたしには恋人なんて絶対出来ないって言うのか?」
「さぁ? そりゃ、もしかすると誰かがお前に告白するかもしれないし? 万が一ってこともある」
「い、一万人に一人? この辺にあたしらと同い年の男なんて、そんなにいないのに……」
更なる{sei}{mei}の追い討ちに、夕陽はがっくりと肩を落とした。
そんな彼女に対し、{sei}{mei}はだんだんと声を大きくしていく。あたかも演説でもするかのように。
「ゆー。俺だって、彼女は欲しい。だって、男の子だもん! 可愛い彼女といちゃいちゃしたいさ!
これは俺くらいの年の男の9割が願うであろう、まさに大望!
可愛い女の子が非現実的な理由で空から落ちてこないかなとか、そんな妄想をしたりもする。
勇者として異世界に召喚されて、可愛い女の子と仲良くなる的な物語とか、そりゃもう、かなり好きだ。
でもな…………違うんだ。今、可愛い可愛いって繰り返したけど、違うんだよ!
ぶっちゃけると、別にそこまで可愛くなくてもいいんだ。スタイルが微妙でもいい!
常識的な範囲内なら、マジで誰でもいいんだ。体重が世界記録的な重さとかじゃなければ!
それくらいの勢いで、俺は、俺たちは、彼女が欲しい!」
「……な、なら、なんであたしじゃダメなんだよ!?」
「お前が下手な鉄砲を打ったからだよ。少なくとも俺が欲しいのは『自分だけの彼女』だ。
脈がありそうな男子全員に当たるようなヤツは、仮に今のお前より数段可愛くても、ノーサンキューだ。
女の子にちやほやされるハーレム的状態には憧れるけど、女の子をちやほやする逆ハーレムを
構成する男の一人になんて、なりたくねーっての。
何て言うか、純真? 俺にだけゾッコンラブ的な? そんな彼女が欲しいわけ」
「んじゃ、もしもあたしが一人にしぼって告白してたら……上手く行ったのか?」
「どうだろうな? もしかすると、そうかもしれないぞ? つーか、最初の一人にはどんな風に振られたんだ?」
「えと、4人で固まって廊下で話してたから、誰でもいいし一人あたしと付き合わないかって」
「ホント、お前が学校一の美少女なら、その4人がこぞって立候補したんだろうけど……。
いや、ゆーは可愛いぞ、うん。可愛いけど、絶世の美女じゃないしってことな?」
「ふんっ。んなフォローなんて、いらねー。自分が飛び抜けて美人じゃないことなんて、あたしが一番分かってる」
夕陽は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
それを受けて、{sei}{mei}も話をまとめに入った。
内心『余計なことを話してしまったかもしれない』と、少しばかり後悔しながらに。
「まぁ、俺もまともに女の子と付き合ったことないし? 偉そうなことは言えんけどな」
「いや、あんがと。割とためになった。他にも何かアドバイスあったら、参考までに教えてくれ」
「んー、そうだな。口調を直せって言いたいけど、ゆーが言ったように今さらだしなぁ。
あぁ。んじゃ、アレだ。髪形を変えるのはどうだ? 思い切って、ショートからさらさらロングに変身とか。
あとは……テキトーに美容体操でもしてみりゃどうだ? 胸とくびれは、あって損するもんじゃねーだろ?」
「んっ、ナイスアドバイスだ、{sei}{mei}」
「そうか? お役に立てて何よりだよ」
「その心遣いに惚れた。だからあたしと付き合って、{sei}{mei}」
「分かった。いいぞ、ゆー」
「――――――……へ?」
「だから、OKだ」
「え、あ、そ、そうなのか? いいのか?」
「こんな俺だが、ゆーの彼氏として恥ずかしくないように頑張る。だから以後、改めてよろしくな」
「あっ、ちょ、ちょっと待て! 今、あたしはノリで言っただけだぞ!? そ、そんな……即答されても、困るだろ」
「そうなのか。お前は俺の男心を弄んだわけか。深く傷ついた。慰謝料を要求せざるを得んな。カフェオレおごれ」
あっさりとそう言う{sei}{mei}に、夕陽は半眼を向けた。
「お前だって本気で答える気、ないんじゃん! くっ……一瞬、焦って損した」
「ん? あれ? もしかして脈があったのか? ドキっとかしたのか?」
「す、するか、馬鹿野郎! お前なんか、イノシシに激突されて来い!」
「何を田舎臭さ丸出しの罵声を飛ばしてんだ」
「知るか! ばーか! ばかばかばーか!」
「おい、ゆー」
「な、何だよ? 怒ったのか? 戦るのか? あ、相手になるぞっ!
今日のあたしは色々とムカムカしてるからな! 手加減しないぞ!」
しゅっしゅっと右手を素早く前に突き出し、シャドーボクシングをする夕陽。
そんな彼女に対し、{sei}{mei}はただただゆっくりと首を振って、こう言った。
「後ろ見ろ。お客様のご来店だ」
「マジで!? あ、ほ、ホントだ! い、いらっしゃいましょっ!?」
――――――またしてもおかしな挨拶を口にする夕陽だった。
{sei}{mei}と三崎夕陽。
彼と彼女のよく分からない関係が変化する切欠となった、ある日の一幕だった。