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■ストーリータイトル■
チとチとチ!
■ストーリー概要■(400文字以内)
王国では古くから吸血鬼との間に密約が交わされていた。
それは『吸血鬼に新鮮で美味い血を提供し続ける。その代わりに人と国を護って欲しい』と言うもの。
そして吸血鬼に血を提供する職業の者を奉晶者といい、$名は10年の修行に耐え、ようやく一人前となった奉晶者である。
意気揚々と自身のパートナーとなる吸血鬼を待つ$名だったが、彼の待ち人は一人ではなく二人……なんと、姉妹だった。
彼女たちの名前はルフォンとトロン。由緒正しき吸血貴族クリアル家の双子の姉妹。
同じ顔に挟まれつつ、$名は今日も今日とて血を吸われる。正しく同期の奉晶者の倍の量を吸われる。そろそろ失血死かもしれない。
しかもその双子の姉妹は超絶仲が悪く、血を吸いながらも喧嘩ばかり。そろそろ$名の胃に穴が開くかもしれない。
さらにそんな不協和音を奏でる3人で、様々な問題を解決しなければならないことになり……。
――――――薄幸の奉晶者・$名の明日はどっちだ?
■プロローグ■
私―――ルフォン・クリアルは今、奉晶館の中を歩き進んでいました。
王都の中心部に存在する機関の中でも高位であるからか、その内装はひどく豪奢です。
私の家とて貴族としてそれなりの煌びやかさはあるけれど……うん、この館には敵いそうにはありません。
そんな取り止めのない比較とともに『やはり全ての生き物の中で最も細工を施すことに優れている種族は人間なのだなぁ』と、
心の底から実感したりします。まぁ、もっとも。今の私にはその豪奢さをゆっくり眺めるだけの心の余裕なんて、ないのですが。
私は足早に館の中を進んで行きます。この廊下の先に、私の運命の人がいるのです。私と今後の人生をともに歩むパートナーが。
どんな人でしょうか? いい人でしょうか? 一緒に長い時間を歩いていこうと思えるような人でしょうか?
これから私はその人と任地に飛んで、色々な仕事と問題を解決していかなければならないのです。どうか、いい人であって欲しい……。
まぁ、奉晶者は基本的に美形で、かつ紳士的だと言う話だから、よほどの“はずれ”を引かない限りは大丈夫なはずですよね?
そもそもこの奉晶館は、有能な奉晶者を育て上げるためだけの機関なのですから、まず“はずれ”はあり得ないはず。うん、多分。
奉晶者。それは自身の体内で生成される命の結晶……つまりは血液を奉げる者をさす言葉です。
「…………私のパートナーとなる人の血の味は、どんな感じでしょうか?」
この世には吸血鬼と呼ばれるモノが存在します。それは何も食さず、ただただ人の血を吸って生き長らえる存在です。
吸血鬼はその稀有な食事形態と同様に、人にはない不可思議な能力を有しています。たとえばコウモリを眷属として手足のように扱い、
様々な情報を座りながらに集めることが出来たりします。あるいは、子供であっても大の男を軽々と殴り飛ばすだけの力を持っています。
そして私も、そんな吸血鬼の中の一人です。
吸血鬼と人間の関係は……長きに渡って、実に友好的な状態が保たれています。
何故なら王国の建国時に吸血鬼と交わされた密約が、今なお堅く護られ続けているから。
それは『新鮮で美味い血を提供し続ける。その代わりに人々を護って欲しい』との密約。
人と吸血鬼との、共生関係。
滅び去った古代の王国は吸血鬼と敵対し、排斥運動を起こしたけれど……結局、うまくは行かなかったらしいのです。
ならば、人間社会に取り入れてしまおう。過去の失敗から学んだ人々は、そう結論つけたのだそうです。
そのため現代において吸血鬼とは王都の名誉貴族であり、同時に人の守護者であると認識されています。
そしてその人の守護者たる吸血鬼に血を提供する者。命の結晶たる血を奉げる者。吸血鬼に尽くす者。
その職に就く者を『奉晶者』と呼びます。字面だけを見れば、一種の生贄のようにも思えるかもしれません。
でも現実は違います。現代の王国においては、エリート色の強い職業です。
何しろ生半可な人間では、吸血鬼にとって美酒足りえる血など、生み出せないのですから。
奉晶者は7歳から、医学・栄養学・宗教学の学習、そして堅牢な肉体作りを始めて、おおよそ10年で一人前となります。
10年。そう、つまりこれから会う人は、吸血鬼である私のために10年も自身を鍛え上げてくれた人なのです。
「きっと、美味しいですよね? 私のためだけの血なのですから」
吸血鬼は一人前になり、奉晶者というパートナーを得るまでは、公血で育ちます。
公血とは一般市民からの献血で集められた、誰のためでもない血です。
いわば、公血は既製品の服。そして奉晶者の血はオーダーメイドなのです。
食い意地が張っているようではしたないですが、正直に言いましょう。楽しみでなりません。
「はずれなんて、あり得ないですよね」
私のためだけ……。それは実に甘美な響きの言葉だと思います。
そんなことを考えて呟いていたら、すぐ隣から嘲笑交じりの声が聞こえてきました。
今の今までその存在を意識しないように努めていたのですが、さすがに話しかけられては無視するわけにも行きません。
私は自身の隣に立つ者へと視線を動かします。
「はずれっぱなしのルフォンが、奉晶者のあたりはずれを心配? 僭越なのではないでしょうか?」
隣を歩き進む愚妹・トロンのその言葉に、私は嘆息交じりで答えます。
「私がはずれっぱなしだと言うのなら、自動的に貴女もはずれでしょう? ねぇ、トロン?」
そう、私が吸血鬼の道から外れた『半端者』だと言うのなら、トロンもそうに違いないのです。
何しろ、私たちは双子。同じ色の髪、同じ色の眼、同じ形の唇、同じ身長、体重……合わせ鏡のような私たち。
双子の私たち。今後も、死ぬまでずっと一緒にいなければならない、二人で一人の関係な私たち。実に不遇です。
「トロン。私を貶めることは、自身を貶めることになるのですよ? そんなことも分からないのですか? お馬鹿さんですか?」
「あら? ではルフォン? 今の馬鹿と言う言葉はもちろん自身に向けていったのよね? ねぇ、お馬鹿さん?」
「なら、貴女も馬鹿です」
「貴女だけが馬鹿でしょう?」
「誰が馬鹿ですか、誰が!」
「だから、貴女だと言っているでしょう!?」
それはきっと奇妙な光景。同じ顔の人間が、同じ口調で貶めあっているのだから。
あぁ、私たちはきっと馬鹿なのだと思います。でも、引けません。
両親には『二人の間でもっと差異を作ればいいのに』と言われることが、多々あります。
でも、髪型も口調も、何も変えられません。何だか、目の前の半身に負けたように思えてしまうから。
髪形を変え、着るものを変え、口調をわざわざ変えることは……勝負の舞台から降りてしまうように思えるのです。
トロンが変えるのなら、止めません。でも、私は自分から変えません。絶対に。
何かを変えるのは、自身が偽者だと認めたかのようで、嫌なのです。
トロンもそう思っているでしょうが『私の方が、オリジナル』なのです。きっと。
「だいたいルフォン? 何なのですか、先ほどから」
「何がですか、トロン? 質問は明確にすべきです」
「私のためだけ、と言ってましたでしょう? それは正しくないのでは?」
「……えぇ、そうですね」
そう。先に言った『私のためだけに』と言うのは正しくない。正確には『私たちの』となる。
唯一無二のはずのパートナー。一対一の関係。そのはずが、私たちの場合だけは二対一になる。
ここ数百年の間、吸血鬼に双子が生まれた記録なんてないと聞いているのに、どうして私たちだけ……?
トロンがいなければ……私一人だけが生まれてきたのであれば……どうして私とトロンは、母様のお腹の中で二人に分かれたの?
そんなことを、つい考えてしまう。だからこそ、私はトロンが気に入らないし、トロンも私が気に入らないのだと思います。
姉妹でケンカばかりしていては、これから会う奉晶者にも呆れられてしまうはずです。もっと気をつけなければ。
そうでなくても奉晶者に対し、私たち姉妹が負担を強いるのは眼に見えているのに。
だって、普通は一対一の関係なのに、私たちだけは二対一なのですよ?
純粋に他の奉晶者より、私たちの奉晶者は出血量が2倍。つまりは命を削る量が、2倍なのです。
せめてあまり喧嘩しないように気をつけて、奉晶者の心労が増えないようにしなければなりません。
――――――そう、思っていたのに……。
「$名様? 血の味が落ちていますわよ? 夜更かしですか? 駄目ですよ、不摂生は!」
「仕方ないでしょう? 私だけでなく貴女にも吸われいるのですし? 気持ち悪くもなりますわ」
「はっ! わたくしじゃなくてルフォンが原因では? 遠慮もなしにいつもたくさん飲んでますもの!」
「私が悪い? どの口が言いますか! 私ではなく、貴女のせいでしょう! そうですわよね、$名様」
「違うますよね、$名様。悪いのはわたくしじゃなくて、ルフォンですわよね?」
「私じゃないです!」
「わたくしだって違います!」
つい、喧嘩をしてしまう私たちです。
申し訳ないとは思うのですが、つい……その、些細なことでヒートアップしてしまって。
あぁ、$名様の表情が何とも言えないものになっています。きっと本日のストレス値も最高値を更新です。
そして翌日、低下した血の質について、私たち姉妹はまたケンカをするのかも? あぁ、なんて悪循環。
そろそろ$名様の胃には穴が開くかもしれないです。ケンカはしないようにしなければ……。
しかし、泣き面に蜂とでも言いましょうか、私たちの任地には問題がたくさんあります。
地方のさして裕福でもないただの農村なのですけれど、まず周辺には竜の巣である山があります。
次に盗賊団のアジトである洞穴があって、さらには腐臭のする毒の沼までもがあったりします。
そんな二進も三進も行かない村を治める長老様は、奉晶者である$名様に、涙目でこう願います。
「今、村は危機に瀕しております。吸血鬼であるクリアル様たちのお力が必要なのです。
$名殿。どうか、彼女たちが存分に力を発揮できるよう、好き血を生み出してくだされ」
$名様はどこか遠い目をしつつ頷きました。
でも、その顔にはこう書かれているように思いました。
ウン、ソレ、ムリ。ショウジキ、ムリ。
………………$名様。不出来な姉妹で、本当に申し訳ありません。
その、ケンカしないように、仲良くするように、頑張ろうとは思うのですが……。
ごめんなさい。