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■ストーリータイトル■
バルガラム王国記 南海章
■ストーリー概要■(400文字以内)
いつものように港を出航した商船ネクタル。風を受けてすいすい進む船の甲板に立てば、気分は最高でした。
しかし心地好かったはずの風はどんどんと強まり、やがては嵐となって船に襲い掛かります。
そしてネクタルに乗船していた商人の子息ティアは……孤島の綺麗な砂浜で目を覚まします。
周囲を見回すと木片が散乱しており……さらには折れたマストまでが視界に入ってきました。
ネクタルの沈没と自身の遭難は、もはや疑いようがありません。
ここはどこ? 助けは来るの? 私の人生は13年で終わりなのですか?
ティアは暑い日差しの下にいると言うのに、目の前が真っ暗になるのでした。
誰か、助けてください。誰か、返事をしてください。誰か……。
■プロローグ■
私はティア・エギーユスと言います。今年の誕生日で、13歳になりました。
お父さんは貿易船の運営を頑張っている商人さんです。エギーユス商会と言えば、国内でも割と大きい方です。
私は小さい頃からよく港に連れて行ってもらってました。だからいつの間にか海や船が大好きになっていました。
女の子が船乗りになるのは難しいとお父さんは言います。いえ、むしろ、大の男でも海は危ない場所なのだと。
確かに、毎年たくさんの人が海で行方知れずになります。それでも、私はいつか自分の船で大海原に出るのが夢でした。
だから私は時折、近海の島へ特産品を受け取りに行く船旅に同行していました。
本当は近海じゃなくて、大海原に出たかったけれど……でも実際の問題として、今の私は子供で体力が足りないから。
それに安全な航路だと認定されている近海だからこそ、お父さんも私の同行を許可してくれているのですし。
今はこれで満足して置きましょう。あまりわがままを言って、家に閉じ込められては敵いませんから。
そしてある日……私は商船ネクタルに乗船しました。今回も近海の島へと特産品を受け取りに行くのです。
過去にも何度かあった船旅。過去と違うところがあるとすれば、今回はお父さんが同行していないところ。
そう、今回は私一人での船旅なのです。お父さんが同行するのは、あくまで港まで。そこからは私だけです。
いえ、もちろん本当に私一人だけで海を進むはずもありません。
エギーユス商会に所属するたくさんの船乗りさんに、船旅を護衛する戦士さんもたくさん乗っていました。
お父さんがいない。いつもと違うところは、ただそこだけ。それでも何だか、ちょっと大人になった気分でした。
碧く透き通った水に、真っ白で触ればモフモフとしていそうな雲。海はいつものように最高でした。
私は出港の時、ものすごく好い笑顔を浮かべていたことかと思います。でも、そんな笑顔は長く続きませんでした。
私の考え。そしてお父さんの考え。あるいは、その他の人々の考えを嘲笑うかのように、大嵐が船を襲撃したのです。
いつも通りの船旅。何も変わらないはずの船旅。約束されたはずの安全。
そんなモノは大自然によって、あっさり反古にされました。
風により船は大きく傾いて、甲板の上に波が押し寄せてきて……船内の至るところが、もう水浸しです。
びしゃびしゃではなく、じゃぶじゃぶです。船の中にいるのか、外にいるのかも分かりません。
ああ、もうこの船は、ネクタルは沈みます。間違いなく……。
嵐も海の醍醐味だなどとは、とてもではないですが思えませんでした。
もう、家には帰ることが出来ないのかもしれない。もう、私は死ぬのかもしれない。
私は不安で胸がいっぱいになって、眼をきゅっと閉じました。
そして…………再び眼を開けた時、私は綺麗な砂浜の波打ち際でうつぶせになっているようでした。
私の胸の下には、木材の破片がありました。これのおかげで、溺死を免れたみたいです。
でも、ここはどこでしょうか? 船はどうなったのでしょうか?
私は手がかりを求めて、熱い太陽の光の下、砂浜を練り歩きました。
千切れた紐や折れたマストと思われる木柱など、船の残骸を思われるものがたくさんありました。
樽もありました。箱もありました。しかし穴が空いていて、中身はありませんでした。
人影は見当たりませんでした。私だけです。他には誰もいません。
一緒に乗船していた船乗りさんたちや、護衛さんたちもいません。
つまり私を守ってくれる人もいなければ、助けを呼んでくれる人もいません。
あぁ、どうして私は魔法の一つでも習得しておかなかったのでしょう?
転送魔法の一つでも使えれば、実家に現状を知らせることが出来ると言うのに……。
私は試しに小声で『火よ』と呟きます。すると指先に火がうっすらと集まって……くれません。
当然と言えば、当然です。試す前から分かりきっていたことです。
でも、ちょっと落ち込むのは何故でしょうか?
火を起こすことすら出来ないという現実を、突きつけられたからでしょうか?
火がないということは、寒くても身体を温められないし、料理も出来ないし、明かりもないということです。
私はこれから、どうすればいいのでしょうか?
はぁ……きっと神様はすごく意地悪なのですね。
嵐の直撃を受けるだなんて言う、大変な目にあったのですよ?
少しくらい、超常的な何かに目覚めてもいいじゃないですか。
お父さん。助けてください。もう一人で船旅がしたいだなんて、わがままは言いませんから。
そんなことを考えつつ、うなだれた私の視線の先に……薄汚れた書物が落ちていました。
これも私と一緒に流れ着いたものでしょうか? 波のせいで、中は読めなくなっているのではないでしょうか?
そう考えながらにページを捲ってみると、意外なことに中は真っ白なままでまったく汚れてはいませんでした。
「…………これって、魔法の交換日記帳ですか?」
それは二冊で一組の、特別な魔法書のことです。
王の書の右側に書いた内容は、宮の書の右側に浮かび上がります。
そして宮の書の左側に書いた内容は、王の書の左側に浮かび上がると……そんな仕掛けが魔法により施されているそうです。
ちなみに当然のことですが、左右を間違って文字を書いた場合は、相手側には何一つ浮かび上がることはありません。
これは転送や感応の魔法が使えない人でも、遠隔地から簡単に連絡を取り合う方法として発明された魔法書なのです。
きっと船と港で連絡を取り合うために、ネクタル船内に常備されていたものが流れ着いたのですね?
あるいは、もしかすると船員の誰かの私物なのかもしれませんが……。
でもこんな装丁の日記帳、あまり見たことがないです。何だか、高そうな気がします。
何はともあれ、少しだけ光明が見えてきました。私は早速、王の書を開いて『たすけて』と文字を綴りました。
もうしばらくすれば、この世界のどこかにある宮の書の一つに、私の文字が浮かんでいくことでしょう。
でも、いくら待っても、文字は浮かび上がりません。私に魔力がないからでしょうか?
やはり、ある程度の魔力がないとダメなのでしょうか? それとも本が海水に浸かったから?
もしくは……文字が浮かび上がったことに、誰も気づいてくれないから?
「気づいて、ください」
私はそう呟きながら、書に付属していた筆を動かし続けます。文字を、書き続けます。
私の書く文字に、誰か、気づいてください。
お願いですから、誰か、気づいてください。
そして、何か返事を書き綴ってください。
誰か……。