ログインすると評価を付けることができます
9
0
1
■ストーリータイトル■
ロボ検
■ストーリー概要■
「世界は宇宙人に滅ぼされようとしている」
その為、世界中で、宇宙人を倒す為のロボットを選出する、「ロボ検」が行われている世界。
元ホストの$姓は亡き祖父の残した汎用アンドロイド、シロを利用して「ロボ検」に出場する。
全ては金の為。
最低下劣な人間である$姓。人を疑う事を知らない明るいシロ。未成熟で歪んだ二つの心の行く先は――。
■プロローグ■
世界は宇宙人に滅ぼされようとしている。
いつの間にか出現した「宇宙人」。通称ノーゲスト。人類がそれに気付いた時には、既に人口の六分の一は失われていた。
未知なる勢力に対して人類は、自律兵器――即ちロボットを中心に戦いを展開し、これまで何とか持ちこたえてきた。
そして現在、宇宙人の猛威を防ぐ為に、新たな戦力が必要とされている。
「世界一の、最強の自律兵器」
それに採用されたロボットは量産され、世界中で宇宙人との戦いに駆り出される。さらに、開発者には一生遊んで暮らせるような、莫大な富が約束されるのだ。
その採用試験こそ、世界防衛兵器採用試験――通称、「ロボ験」。
日本でもその試験は進められており、世界中で試験が行われている。
地球を救うロボット。それを決める為に。
しかし、そんな事は俺にとって何の関係も無い。俺はただ、
――金が欲しい。
それも、はした金じゃない。目の眩む様な、一生過ごしていけるような大金を。
その為には、俺は何の犠牲も厭わない。例え心を悪魔に売っても構わない。
だから俺は、こう言うのだ。
「本当に、貴方は綺麗だ」
俺は目の前に座っている、良くてブタにしか見えないババアに愛を語っていた。赤ん坊でも詰まっているのかと思うほど巨大な二の腕が、俺の愛を受けて歓喜に震える。
ブタの顎には、首輪よろしく宝石のネックレスが何重にも巻きつけられている。俺はブタの顔を見る振りをして、さっきからずっと宝石に語りかけている。そうしないと、このブタの顔を直視出来る自信がない。
高級ホストクラブの看板を掲げるここに、俺のような青二才が入れたのは、俺に類稀なる美貌と、どんな嘘でも隠し通す達者な口があったからだ。
そのお陰で、そこらへんの奴等が一生懸命働いても得られないような大金を、一夜で使ってしまうような、出鱈目なブタどもとも会う事が出来た。
――だからあと、もう少し。
そうすれば、このブタどもを見なくて済むようになる。こいつらの顔を見ているだけで、吐き気がするのだ。出来るならば、今すぐ殴り殺して、どっかの貧民国に食料として売り払いたいぐらいだ。
だが、そんな事が許されるわけがない。暴れる本心を押し殺して、俺は仮面を被ったまま口を動かしていく。
すると、ブタに反応があった。
「携帯の番号、教えてくれるかしら?」
腐った果実系の甘ったるい声音で、ブタが言う。
――来た。
その言葉は非常に魅力的だ。番号を教えるという事は、その程度は俺の事を気に入ったという事である。必然、それ以降の大規模な収入も見込めるワケだ。
もちろん俺は、身体を売ることだって厭わない。もはや慣れた今となっては、何の苦痛でもない。いつもと同じ。ただ、嘘を吐き続けるだけだ。
金を得る為だったら、何だってやってやる。
そう思っていた。この時までは――。
「あー! マスター!」
場違いな、高い声。
電話番号を紙に書いている時、俺に向かって手を振る場違いなガキが見えたのは、日頃から来るストレスと、疲労による幻覚だと信じたい。
ブタが、やや冷めたようにこちらを向く。
「知り合い?」
俺は営業スマイルで断言する。
「いいえ、誓って赤の他人です」
これは本当だ。だから、「わー」とか、「やったッスー」とか言いながら、こっちに来ないでくれ頼むから。
そんな俺の思いも空しく、そのガキは俺のまん前にきやがった。そして眉間に皺を寄せて、不満げに口を尖らせる。
「もー、探したんスよマスター。こんな地下に居て、何やってたんスかー?」
無視してやりたかったが、そんな事は出来はしない。何故なら、さっきから突き刺さるブタの視線があからさまに怪しいのだ。考えてる事はこんな所だろう。「このロリコンが!」。このガキは悪魔だ。俺の熟女好きという偽りのアイデンティティを破壊しに来た悪魔に違いない。
この苦境を脱するべく、俺は急な事で外れかけた嘘を身にまとう。襟元を引き締め、女ならば誰でも見とれるような笑顔を作る。
完璧。その状態で、俺はガキに振り向く。
「すみませんが、お嬢様。ここはお子様の来られるような場所ではありません。どうしてもご所望ならば、こちらの方のような、立派なレディーになられてからお越しください」
決まった。ブタを立てつつ、やんわりと断る紳士の技。
「体脂肪率60%……!? うわ……レディーって凄いんスね……!」
無視か。無視なのか。そしてあろう事か、ブタの腹を触るお子様。その度に贅肉が揺れて、他の客の失笑を買った。時間よ止まれ。そしてこいつを消してくれ。
「…………っぃ!」
当然のように、ブタは顔を真っ赤に染めた。そしてどこから現われた判らないのだが、隠れていたのだろう。スーツに身を包んだ、サングラスをした黒服達が出てくる。まるで映画のようだと、他人ごとのように俺は思った。
「離れろッ!」
黒服が、少女に手を伸ばす。力強く引っ張ったのだろう。黒服の体重は、少なく見積もっても俺の二倍はある。少女は呆気なく引き剥がされる。
――はずだった。
「なっ――」
それは異常な光景。大男が、何の身動ぎもしていないただの少女を、その場から引き剥がす事が出来ない。
「え、な、なんスか? どうしたんスか?」
「うぉおおおおお!」
全く動かない少女を、力強く引こうとする屈強の黒服。まるで高度なパントマイムのようだ。ただの少女相手に、黒服が汗を垂らしている。
否――そんなものが、ただの人間である筈が無い。
それについて深く考える間もなく、何故か、二人目の黒服が俺に向かってくる。仲間だと思われているらしい。そして彼は懐に手を入れていた。そこからちらりと見える、黒光りする物体。
アホか。アホなのか。
一夜で目の眩む様な大金をバラまくとは知っていたが、死体までバラまくとは思わなかった。しかもブタの目は冷たかった。体脂肪率60%がよほど応えたらしい。
「ちょっと……お仕置きしてやりなさい」
怒りに腹を震えさせつつ、冷厳に告げるブタ。やる気マンマンですか。
そして迫る黒服。このまま何もしなければ、俺は職と一緒にゴミ箱に入れられるのだろう。そう考えると、腹が立った。
――っていうか、キレた。
「うるっせえんだよブタ。何様のつもりだアンタ?」
時が止まったように、場が凍りついた。それはそうだろう、今日まで期待の新人と囁かれていた俺。そして優しくクールなメガネくん、として認知されていた俺。その口から飛び出た罵声。
汚物を見るような目――俺の本心をフィルターを介さずそのままリアル放送。幻想の中に居たメスどもを現実に引き戻す。
「ぶ……た……?」
まるで信じられないようなブタの呟き。思わず失笑。
「そう、ブタ。ブタだ。テメーの顔見てるぐらいなら、雑草見てる方が幾らかマシ。鏡見た事あんのかよ? よく生きてられると感心してやる。俺なら恥ずかしくて死ぬな。
つーか、金あるなら、脂肪吸引とかすれば良いだろ。それか、元が残らないぐらい整形しろ。それでも足りないぐらい、テメエのツラは気に障る」
「おいッ!」
黒服が、俺を取り押さえた。そこでやっと少し冷静になる俺。
「こ、殺しなさいッ!」
だが、時既に遅し。怒りで醜悪に染まったブタの怒声と同時、拳銃が首筋に突きつけられる。
死ぬ覚悟なんてない。まだまだやる事がある。死んでられない。だが俺には、この状況を覆す不思議パワーなんて持ってない。
ブタを睨みつつ、もう駄目か。本気で思ったその時、
「あわわっ! パーツA、スラストワイヤーッ!」
馬鹿っぽい技を叫ぶ声が聞こえた。
「うげッ!?」
同時に金属音。苦悶の声があがって、俺の拘束が解かれる。俺はすかさず黒服を殴りつけて自由を獲得。
完全に自由になると、前に立っていたのはあの少女。その手から、糸のようなものが伸びていた。先端には、文鎮のようなものが付いている。もしかして、それで黒服を倒したのだろうか。じっと見ている暇もなく、文鎮は少女の腕に巻き取られる。
「う、うわぁ! またやっちゃったッス! そ、それよりもマスター、大丈夫ッスか!?」
――アンドロイド。
この世界には、ロボットが存在する。
全ては宇宙人を殺すため。その道具に過ぎない無機物の兵士。壊されても壊されても、戦地から回収されて再利用(リサイクル)されて、戦い続ける不屈の存在。
素晴らしい栄光と勝利を与えてくれた、我等のロボット兵団。だがその反面、世界にはアンドロイドを作る技術は拙い。何故ならば、戦う存在として、わざわざ人に似せる必要性は薄いからだ。
それどころか、一見して人としか見れないものなど、見た事がない。
「痛いの痛いのとんでけーっ! とんでけーっス!」
自分が昏倒させた黒服に呪文を唱える少女。ちなみに、こんな馬鹿そうなロボットも見た事がない。
とにかく、何故そんなものがこんな所に居るのか。思考を巡らせる暇もなく、チャキと、映画の中でしか聞いた事のないような音が聞こえた。
恐る恐る振り向けば、十人ほどの黒服が徒党を組んで、こちらに銃を向けていた。サブマシンガンというヤツだろうか。ホストに銃器の知識は必要ないが、ブタによって紡がれた命令だけは俺でも判った。
「撃ちなさい」マジですか。
雨あられと打ち込まれる銃弾。ひいひいテーブルの下に逃げ込む俺を、アンドロイドは不思議そうに覗き込む。
「えっと、マスター? 何であの人たち、怒ってるんでしょうか?」
「お前の所為だろうが!」
俺にも非はあるかもしれないけど、そんなもんは知らん。クラブで銃器ぶっ放しているあのブタが一番悪いのは確実だ。
「というより、一体何なんだお前は? 人の大事な仕事、不意にしちゃってくれてさ。悪魔? っていうか、恨みでもあるの?」
「マスターぁ……」
泣きつくような甘ったれた声。
「だから、そのマスターってのは何なんだ!? って、危ねぇッ!」
髪先を擦った弾丸。それはあさっての方向に飛び、更なる悲鳴を呼んだ。
アンドロイドは眉をひそめて、銃を乱射する連中を睨む。
「マスター……もしかして……あの人たち、悪い人ッスか……?」
「もしかしなくても、見りゃ判るだろうが! テメーの所為でこうなったんだ! 責任取れ!」
「判ったッス」
「あ?」
アンドロイドはテーブルから無防備に立ち上がると、黒服集団と対峙した。
「あなたたちは、悪い人ッスね。悪い人を倒すこと。それは良い事だって、陣さんが言ってたッス!」
陣、その響きに、聞き覚えがあった。だがすぐには思い出せず、俺は記憶を掘り起こそうと必死になる。
そんな俺に構う事無く、アンドロイドは無謀にも黒服の集団に突っ込んだ。
アンドロイドの柔らかそうな皮膚では、銃弾は止めきれないだろう。それは、あまりに無謀な突撃だった。
向けられる銃口。だが、アンドロイドはその引き金が引かれるよりも速く、黒服集団の中心に潜り込む。
あまりの速度。視認さえも覚束ない超高速に、俺を含めた一同は絶句する。ロボットなら、一度や二度ぐらい見た事はある。だが、あんな動きをするロボット。少なくとも俺は、見た事がない。
その時、やっと俺は思いだした。陣――$姓陣。
俺の、祖父の名前だ。
「やぁっ!」
おちゃらけたような気合一発。蹴り上げられた何人かの黒服は、さらに控えていた黒服たちをも巻き込んで昏倒する。
「はっ!」
死角に周りこんだ黒服を、テーブルごとCGのように豪快に吹っ飛ばして撃退。その巻き添えになったワイン棚。俺の給料一年分でも足らない。ああ、と情けない声を出させた、あのロボットをスクラップにしてやりたい。
というか、お前。今蹴り上げたテーブルも大理石よ。金の価値判ってんの?
$姓陣――ジジイもそうだった。いつも変な発明品ばかりを作って。そこの口では騒がれていたそうだが、金に対する執着心はゼロだった。
そいつが作ったロボット――アンドロイドか。なるほど。
最悪だ。
俺の思考を読み取ったかのように、店の目玉だった豪奢なシャンデリアが衝撃で落下した。
銃撃音がピタリと止んだ店内。もはや立っている黒服はなく、ブタは白目を剥いて気絶していた。その中心で、万歳をしているアンドロイド。
「終わりッスー」
ああ、良かったね。
アハハ、と乾いた笑みを浮かべた俺の口からエクトプラズムが飛び出しそう。錯乱してるね俺。
「あ! じ、自己紹介してなかったッスか?」
そういう問題じゃない。だが、俺は二の句を継げずにアハハと笑う。そしてお構いなしにアンドロイドは勝手に自己紹介を始めた。
「ボクはSHIRO。通称シロ」
まるで世界全てが善人だと言いたげな、とびっきりの笑顔で、
「門井陣さん、マスターのお爺さんに作られた、万能女性型アンドロイドッス!」
そう言ったシロの後ろで、この店のマスターが、親指を右から左へ。首を掻っ切る動作をした。
俺――$姓$名は、乾いた笑顔を返すことしか出来なかった。
――で。シロから脈絡のない話を聞かされて、大まかな話は判った。
一つ。シロは生まれたばかりで、言葉や動作などの最低限の情報しか判らないらしい。だから、あの場で大暴れしてしまったのだろう。悪魔だ。
二つ。あそこに来たのは、俺の身体の中にセンサーが埋め込まれていて、それを追って来たのだということ。人権侵害だ。
三つ。そして俺の身体にセンサーを埋め込み、このシロを造ったロリコンジジイは、既にぽっくり逝っちまったという事。ざまあみろ。
四つ。俺をマスターと呼ぶのはジジイの遺言で、そして俺を手助けしろということ。
統括すると、迷惑極まりない話であった。
俺とシロは、普通に街の中を歩いていた。宇宙人の危機に晒されていても、人間は大して変わらない。いつも通りの日々を送っている。要は慣れだ。
「で、マスター。何か手伝える事はないッスか?」
「まず、そのマスターってのを止めろ。そして付いてくんな」
「駄目ッス! 二つとも、陣さんの遺言なんスから! ボクは、良い事をする為に生まれてきたんス!」
俺はため息をつく。もう少しだったというのに、全てコイツの所為で台無しだった。顔を見るのも嫌だ。死ね。いや、この場合は、壊れろか。しっくり来ない。
それにしても、あのジジイだ。最近はちょっかいを掛けてこないと思ったら、こんなものを造りやがった。ロボット工学の天才か何か知らないが、俺にとっちゃ町の端っこで変なモンを量産している変態だ。昔、危うくバッタと融合させられそうになったのは俺のトラウマ。
その教訓。ジジイの発明品は、ロクなものがない。
「それでマスター。ボクは何をしたらいいッスか?」
ニコニコと、笑いながら言ってくる。解体して売り払うという手を考えたが、あまり金になりそうにない。
そこで、ふと張り紙に目がいった。張り紙にはデカデカと、文字が書いてあった。
「おい」
「ハイ! なんスか、マスター!」
「俺の為だったら、何でもするんだよな?」
「もちろんッス! 玉砕覚悟で望みます」
俺はその言葉で、唇の端が吊り上がるのを感じた。
張り紙には、デカデカとこう書かれている。
≪ロボ検≫
それは要するに、世界一のロボットを決めるというバトルロワイヤル。
採用されれば量産化が決定し、さらに持主には莫大な恩賞が約束される。その程度は当然だ。なにせ、世界を救うロボットに選ばれるというのだから。
そしてその注意事項。
≪試験途中で壊れたロボットについては、責任を負いかねます≫
つまり、成功すれば俺は金を得られる。失敗すれば、こいつは勝手に俺から離れてくれる。
どちらに転んでも、俺の得という訳だ。
たまに、俺は知り合いから言われる。最低な人間だ、と。
そんなの知ったこっちゃない。
だから、俺はこう言う。
「ロボ検に出場しろ」
これは――最低下劣な人間と、人を疑う事を知らない愚かなアンドロイドの話。