ログインすると評価を付けることができます
7
0
0
■ストーリータイトル■
ビター・スイート・フィアンセ
■ストーリー概要■
数億分の一の確率で、お見合いコンピューターに選ばれた男女の出会いの物語。
結婚を考える年頃になり、出会いに悩んでいた谷口百合(タニグチ・ユリ(あなた)が登録したのは、
独自に開発された特殊な検索方法によって、世界中から自分にぴったりの男性を見つけてくれるという
「はいぱあお見合い紹介所」だった。
多額の料金を支払って登録した主人公が紹介されたのは、同じ日本人の男性。
「つりがきシート」では、顔写真、経歴、年収、身長、体重、生活、嗜好、全てが主人公の理想ばっちりど真ん中。
しかし、最初に彼から来たメールはそっけないを通りこし、まるで百合をバカにしていた。
メールを続けるうちに、どんどん違和感が生まれる。
顔も仕事も申し分ないけれど、なんだかとっても相手の性格が悪い……。
(この人、本当に私のベストパートナーなの……?)と疑いはじめる百合。
最後に知った彼の秘密によって、自分にとって条件よりも大切なものに気づいていく。
■プロローグ■
「あーあ……。どこかに良い人いないかなあ」
高い空を見上げて、思わずつぶやいた。
こんなにお天気の良い日には、何もかも忘れて出かけたくなる。
もしも、その隣に大好きな人がいてくれたら……。
どんな風に世界が見えるんだろう。
どんなにうれしいだろう。
どんなにしあわせなんだろう……。
ふと我に帰ったわたしは、まだ仕事の途中だったことを思い出した。
洗濯カゴを足元に引き寄せて、中から脱水されたタオルを一枚取り出し、もの干し竿につりさげる。
洗いたての洗濯物からは、爽やかなシトラスの香りがした。
数十枚のタオルを干し終わった後、立ったりしゃがんだりの動作をくり返した腰をたたく。
「あいたた……」
いくら若いと言っても、ペットショップの仕事は重労働だ。
子犬や子猫は小さいけれど、ペットフードの袋や缶詰の詰まったダンボールは驚くほど重い。
大量に出るゴミの処理、タオルの洗濯、ケージの掃除……。
生き物の世話には、お盆もお正月も関係ない。
トリミングも立ちっぱなしの仕事なので、毎日足が棒のようになる。
けれど、わたしは動物が大好きだから、やりがいのある仕事につけて幸せだった。
…でも時々、お年寄りみたいに腰を叩いてしまう自分が悲しい。
「百合ちゃーん。次、ワンちゃんのドライヤーお願いね~!」
お店の裏庭にいたわたしに、店長から声がかかった。
「あ、はーい! 今行きます!」
わたしは大きな洗濯かごを持って、お店の裏口へと走った。
わたしの日常はこんな感じで、人気のペットショップに勤めつつ、日々の雑務に追われてる。
出会いはたくさんあった。お相手は、犬くんや猫ちゃんだけど……。
それでも、とっても愛らしいお客様達に囲まれて、わたしの毎日は充実していた。
そんな日々を夢中で過ごしていると、あっというまに20代後半にさしかかってしまった。
毎日同じ生活の繰り返しの中、せめて、心安らぐ恋人が欲しいと考えるようになって……。
恋も仕事も欲しいって、ぜいたくなのかな。
街を歩けば、恋人同士であふれてる。
なのに、どうしてわたしの隣には誰もいないんだろう……?
そんなことを考えはじめると、どんどん虚しくなってしまう。
恋愛には奥手だけど、わたしだっていつかは結婚したいし、子どもも欲しい。
「でも、肝心の相手がいないんじゃなあ……」
切ないため息は、犬を乾かすドライヤーの音にまぎれて誰にも聞こえなかった。
* * *
「はいぱあお見合い研究所」の存在は、雑誌の広告やテレビCMでもばんばん流れているので、当然知っていた。
「はいぱあお見合い研究所」
会員総数は世界でもぐんを抜き、業界NO,1のシェアを誇っている。
最大の売りは、企業秘密の特殊なプログラムによる検索方法だった。
マッチングしたお相手との相性・成婚率は、限りなく100%に近いと広言。
その思いやりのこもった検索プログラムは、愛の女神「アフロディーテ」と呼ばれている。
キャッチコピーはまさに、「この世界中でただ一人の、運命の人と出会えます」
お見合い相談所に登録する時、誰でも少なからずそれを期待しているだろう。
でも、「必ず会える」と言い切ってしまうはいぱあお見合い研究所は、異色の存在だった。
そして、お値段も異色……。
入会金100万円。新しくお相手を紹介してもらうたびに、50万円……。
信じられないくらいに高い。
この料金設定が「はいぱあお見合い研究所」のものでなければ、誰からも受け入れられないはず……。
でも、実際にわたしの周りにも、はいぱあお見合いで出会った夫婦は少なくなかった。
一昔前は「お見合い結婚なんて、もてないみたいでかっこわるい」
なんていう考え方が根強く残っていたけれど……。
はいぱあお見合い研究所の登場で、そのイメージは一新された感じがする。
その入会条件の厳しさから、真剣に相手を探したい人だけが登録しているので、それだけでも信頼に足るものだった。
いわば、一回100万円の当たりくじ。ハズレなし!みたいな……?
はいぱあお見合い研究所のサイトを熟読して、はや数時間。
20歳で就職して、コツコツためた貯金の残高がふと頭によぎる。
払えないわけじゃ、ない……。
契約画面にでかでかと出ているコピーが目にとまる。
「この世界中でただ一人の、運命の人と必ず出会えます」
運命の人と、必ず出会える。
気持ちが揺れ動きやすい女の子は、強気に断定されると弱かった。
(必ず会えるのなら、100万円は惜しくないんじゃない……?)
手に職をつけたりして、将来のこともそれなりに考えながら慎重に生きてきたけれど…。
長い間一人で頑張って来たわたしの人生は、パートナーと出会えて初めて完成するように思えた。
どうしてそんな風に感じたのかわからない。
新しい服を買いに行く前みたいに、気分がかなりハイになっていたせいもある。
でも、そうだとしても。
今の自分を変えたり、新しく何かを始めるには勢いがいる。
このまま何もしないでため息をつき続けるよりも、はいぱあお見合いに賭けてみるべきなのかもしれない…!
まるで導かれるように、わたしの両手がキーボードを叩いていた。
始終ドキドキしながら登録プロフィールをウェブ上の申し込み用紙に書き込み、空欄を埋めていった。
早鐘を打つ心臓の鼓動が、マウスをクリックする指先にまで伝わる。
最後のページ。
祈りを込めて、人差し指に力を込めた。
「どうか、どうか、素敵な人と会わせてください!」
パラッパッパラー♪ お申し込み完了です!
気が抜けるような音楽が鳴り響き、天使がラッパを吹いている画面が映し出された。
「ほ、ほんとに申し込みしちゃった……」
信じられない思いでもう一度確認すると、わたしのプロフィールのつりがきシートがしっかり登録されていた。
どうして今まで何も行動しなかったんだろう? と思うくらい、結婚への入り口は簡単に開かれた。
続いて書かれていた研究所からのメッセージにも目を通してみる。
「のちほど、あなた様が登録された理想の条件にて、お相手の検索結果をお届けいたします。
この世界で一番、あなたの理想に適うお相手です。
それはつまり、あなたの運命のお相手であるということ同意義であります。
素敵な出会いになりますようお祈り申し上げます!
それでは、素敵な未来へ向かってはいぱあフォーカス!」
「はいぱあ、フォーカス……?」
意味はわからないけど……。
ああ、それより本当に登録してしまったんだ。
ひゃ、ひゃくまんえん……。
わたしは運命の人と引き換えに、100万円を支払った。
もう、後には引けないんだ!
心を落ち着かせるために深呼吸していた時、Eメールが届いた。
「はいぱあお見合い研究所です! ($ユーザー名)様のお相手が見つかりましたあ!」
その文字が目に飛び込んで来た瞬間、痛いくらいにドキン!と心臓が跳ねた。
「も、もう!? すっごい早いんだね……!」
思わずメールに向かって返事をしてしまうくらい、わたしは慌ててしまった。
姿勢を整えて深呼吸を一つした後、震える指先ではいぱあお見合いのサイトのURLを開く。
PC画面に明々と表示されているのは、「瀬戸拓司さん」のつりがきシートだった。
瀬戸拓司さん。
29歳。
国立大卒。
証券会社勤務。年収1000万円以上……。
ざっと見た経歴だけでもレベルが高いのに、顔写真も驚くほどわたしの好みど真ん中だった。
「きゃー! こんなにかっこいい人、一体どこに隠れてたの!?」
思わず本音がこぼれてしまい、胸の高鳴りを押えられなかった。
この人が、わたしの運命の相手……。
写真をマジマジと見つめるほどに、不思議な気持ちが湧き上がる。
わたし、この人と結婚するんだ……!?
どこに住むんだろう。やっぱり、最初は賃貸マンションかな。ペットも飼いたいなあ……。
あ、瀬戸さんのプロフィールに「動物・子ども好き」って書いてある!
さすがはいぱあお見合いだ。なにもかも条件にぴったり!
その時のわたしは舞い上がりすぎて、すでに恋愛が始まっているような気持ちになっていたのかもしれない。
恋愛経験のとぼしい女の子にありがちな妄想を抱きながら、わたしは瀬戸拓司さんからのメールを待った。
数日後。
待ちわびたメールにあった一言は。
「あんた、結婚したいんだってね」
「こんなのに100万払うなんて、あたまおかしいんじゃねえの?」
これが、運命の相手からの届いた初メール……。
続々と綴られている衝撃的な言葉を、わたしはただ呆然と見つめるしかなかった……。