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るつぼ提出、四作目。
可愛い女の子が自宅に転がり込んでくるという『萌え』展開!
でも、何かがちょっと違うような?(一陽)
■ストーリータイトル■
 アイ・ラブ・プラント!



■ストーリー概要■

 俺の所に送られてきた大きな卵型プランターから出てきたのは、緑の髪のガキんちょだった。
 頭からは雑草が生えてるし、言葉はしゃべれないし、どこからどう見ても普通の人間じゃない。
 一度は送り返そうとしたものの、箱に入っていた取扱説明書を読んで考えを改めた。

「こいつは誰にも渡さない」

 固い決心をして、この不思議な幼児と生活することになるのだが――ガキんちょとの生活は苦労の連発。果たしてどうなることやら……。

『育成型植物“プラント”』とごくごく普通な青年の、ハートフルストーリー。



■プロローグ■

 ただのプランターのはずだった。
 卵の形をした、少し大きめの栽培キットだと思ってた。
 なのにそれは突然ひび割れて、細かな破片をこぼし始めた。

「――なんだ、これ」

 卵の中から、コツコツとノックするような音が聞こえてくる。
 警戒しながら――そして半分びびりながら卵を凝視していた俺は、ひときわ大きなノック音にびくりと肩を震わせた。
 大型犬サイズの卵の表面に、こぶし大の穴が開いている。
 そしてその穴の向こうに「何か」がいるのを、俺の良すぎる目が捕らえていた。

(逃げよう!)

 真っ白になっていた頭にようやく正常な判断が下されて、俺は「それ」を見つめたまま後ろへ下がる。――が、床にあった雑誌に足を取られ、ギャグマンガさながらに盛大にすっ転ぶ。
 頭を押さえて悶絶していた俺は、ガラガラと崩れる音に驚いて卵を見た。
「ひっ……!」
 ヒビの入った卵から、白い腕が出ていた。
 子供サイズの短いものだが、間違いなく人の腕だ。
 力なく垂れ下がっていたソレがふいに持ち上がり、殻の端に手をかける。その瞬間、再び大きな崩壊音がして中の物が飛び出した。
「!」
「ふぁららああん~」
 殻の中から出てきたのは、少量の水と緑色の球体だった。
 雑草を丸めたような奇妙な形をしたそれは、床の上をころころと転がったあと、テーブルの脚にぶつかって動きを止めた。
「ふぁ~ら~」
 変な声と共に雑草の一つがピンと跳ね、緑の塊がゆっくりと動き始める。
 腕が出て、足が出て、緑色の雑草の中から小さな顔が現れて――小動物がやるように体をぶるりと震わせたあと、丸くて大きな緑色の目を、真っ直ぐ俺に向けてきた。
「ふぁら~」
「……は?」
「ふぁ~?」
 緑の塊だったそいつ……植物の髪に緑の目の幼児は、俺のまねをして首を傾げる。
 ――そう、幼児だ。これ、人間だよ。
 卵から人間が出てきていいのかよ。つか、なんで俺の部屋にこんなもんがあるんだよ!?
「ふぁ~ら、ふうう」
 自分の髪の毛で遊び始めた緑色の幼児を見ながら、腰が抜けたようにへなへなとその場に座り込んだ。


 あの卵は、五日ほど前に宅配便で届いたものだった。
 段ボール箱を開けると「ネットアンケートご協力ありがとうございます」と書かれた紙と、説明書のような分厚い本と、例の球体が収まった長方形の箱が入っていた。
 緑色っぽいその箱には『なんとか植物・試作品』という商品名と、水を与えて日当たりの良いところに置いてください、という一文がデカデカと書かれていた――と、思う。
 容器の大きさから、背の高くなる観葉植物か何かだと思っていたのだが……まさか人間が出てくるなんて。
「つーか。五日間もどうやって生きてたんだ?」
 説明書の通り、卵型プランターには水と太陽の光しか与えていない。
 その間もこいつは卵の中にいたことになるが、物音一つ、声一つ聞こえることはなかった。
 普通の人間なら、五日も飲まず食わずで生きられるはずがない。
 普通の人間なら、五日間も物音一つ立てずにじっとしていられるわけがない。
 そう、普通の人間なら――。
「送り返そう!」
 天啓のごとく閃いた考えに、狭い室内を見回した。
 散らかった部屋の片隅に真新しい箱を見つけると、俺は緑の幼児を横目に見ながらそっと移動した。
 地球と植物が書かれたその箱には、たしかに『育成型植物“プラント”試作品』と書かれている。だが、どこを探しても、肝心の住所が見つからない。
 唯一見つけたのは社名のみ。“プランツオブジアース”――直訳すると『地球の植物』?
「嘘つけ! 草が生えた人間なんて、どうみても地球外生命体か遺伝子操作で……」
 言いかけた言葉を飲み込んで、おそるおそる緑の幼児に目を戻した。
「まさか……な」
 クローン技術規制法がある現代日本で、そんなものを作れるとは思えない。
 仮に誰かがこっそり作っていたとして、人の家の前に箱入り説明書入りで置いていくバカがどこにいる?
 下手したら刑務所送りになるかもしれないのに、日の当たるところに研究結果を運ぶはずがない。
 けど、じゃあこのガキんちょは何なのだと言われたら、俺にも良くわからないけど……。
「ふにゅ~」
 髪の先についている葉っぱに手を伸ばしていたガキんちょが、突然コテンと転がった。すぐに起き上がるかと思ったが、なかなか起き上がろうとしない。……いや、起き上がれないのか?
「おい、どうしたガキんちょ」
 這いつくばったままのガキんちょに声をかけると、そいつはゆるゆると俺のほうへ目を向けて、小さな顔をくしゃりと歪めた。
「……びぃいいいいいー!」
「うお!?」
「びー、びぃいいいー!」
 赤ん坊のように全力で泣き出すガキんちょに、危機的なものを感じた。
 さっきまでの恐怖も忘れてガキんちょに駆け寄って、抱き起こす。
「冷たっ」
 うつぶせのままのガキんちょは、信じられないほど冷たかった。
 ひんやりした素肌は乾燥したグラウンドみたいにカサカサで、緑の髪も心なし萎れているように見える。
「おい、お前。人間なのか? それとも植物なのか?」
「びいいいいー!」
「あーもう、くそ! どこだ、説明書!? 取説ー!」
 ガキんちょを抱えて箱のところへ取って返し、分厚い説明書を睨み付けること約十分――。
「ふぁ~ふぁら~」
 水を張った鍋に足を入れたガキんちょは、満足げに鼻歌を歌いだした。
「……こいつ、一体なんなんだ?」
 取説の一ページ目にあった『最低限の手入れ方法』には、孵化後の世話の仕方や食事のことなどが事細かに書いてあった。
 常に体の一部を水に浸しておくこと。一日数時間は太陽の光に当てること。
「ふぁう~ん」
 あとは、寒さ対策として俺のTシャツを着せてみたんだが、ぶかぶかしていてあまり役に立っているようには見えない。
 もっときちんとした防寒着を着せた方がいいのか、人間の子供が着るような服で十分なのか……。
「やっぱ、これを読破しないとダメか?」
 呟いて、重い取扱説明書を手に取った。
 食べ物とか排泄とか、他に知っておかないとマズイことがあるかもしれないし。
「ふんふん、ふ~ん」
 上機嫌なガキんちょの鼻歌を聞きながら、俺は眠気を誘う文字列に意識を戻した。

 どれくらいそうしていたか。ふと気付くとガキんちょの歌が聞こえなくなっていた。
 慌てて顔を上げると、ガキんちょは日の当たる窓辺でちょこんと座っていた。ただし、その周辺にはおびただしい数の葉が落ちている。
「ガキんちょ?」
 呼びかけると、ガキんちょはぱっと顔を上げて笑顔になる。
 そして手にしていた一枚の葉を持って俺の所にやってくると、「ふにゃ」だかなんだかよく分からないことを言いながらその葉を差し出してきた。
 これを一体どうしろと?
「食べるとか?」
「うぬぬー」
 俺の言葉が分かるのか、ガキんちょは思いっきり首を横に振る。
「じゃあ、飾るとか?」
 葉っぱを頭に乗せると、またまたガキんちょが首を振る。
「ふぁ~ら~」
 業を煮やしたのか、ガキんちょは俺の手を小さな両手でしっかりと掴んだ。そのまま上へ上へと手を持ち上げられて、窓から入る光に葉っぱが触れる。
「あ」
 葉の表面に線が見えた。
 文字のような、絵のような。微妙な感じのつたない線。
「これを書いてたのか?」
「ふぬ~ん」
 ニコニコと笑っているガキんちょは、何かを待つように俺をじっと見上げてくる。
 待てよ。この顔はもしかして……。
「おおー、すごいなガキんちょ。文字が書けるなんてビックリだー」
 ちょっと大げさに褒めた瞬間、ガキんちょの目が面白いほど輝いた。
「ふぁらら~ん」
 髪の毛とシャツをくるりと翻し、ガキんちょは軽やかなスキップで元の場所に戻っていく。そして、手近な葉を手に取って、指で何かを書き始めた。
(反応は、人間の子供と同じだな)
 うちの弟のように照れ隠しで殴ったりしない分、素直でかわいいかもしれない……って、和んでどうする!?
(あいつは、この『地球の植物』会社に送り返すんだろうが! 情を移すな! 彼女いない暦実年齢の俺が、幼児を育てられるわけないんだから!)
 気合いを入れなおして取説に取りかかる俺の目に、妙な言葉が飛び込んできた。
 二章の最初のページ。
 タイトルになっている『育成型植物“プラント”の育て方』の前に、ピンク色で文字が付け足されている。
「忠実な恋人に育てちゃおう(ハート)育成型植物“プラント”の育て方……? ――恋人!?」
 思わずつばを吹いてしまって、取説に水玉模様が出来た。だが、そんなことはどうでもいい!
 高速でページをめくりさらに読み進めて、愕然とした。
「……なんだよこれ」
 自分好みの恋人にするためには。
 従順な性格に育てるためには。
 プライドの高い性格にするためには――。
 そんな言葉があちこちに躍っているのを見て、嫌な不快感がこみ上げてきた。
 ガキんちょはただの植物じゃない。
 歩くし、泣くし、感情のある生き物なんだ。
 それを無視して、見ず知らずの男の『恋人』にさせられるなんて……!
「くそ!」
 胃のあたりがムカついて、苛立ち紛れに取説を投げ捨てた。
 もしもこの会社にガキんちょを送り返したら、こいつは別の男の所へ送られるんだろう。
 そうしたらこの取説通りに育てられて、『忠実な恋人』にされちまうに決まってる。
「ふぁる~ん」
 間近でガキんちょの声が聞こえ、俺はゆっくりと深呼吸をしてから顔を上げた。
 目の前には、無邪気そうな顔をしている緑の子供。
 その手に数枚の葉っぱがあることに気付いて、そっと手を差し出した。
「――え」
 一枚目の葉に書かれた線を見て、俺は目を見開いた。
 文字が書いてある。
 さっきの意味不明な線とは違うちゃんとした日本語――ひらがなだ。
「こん、にちは……?」
「ふふ~ん」
 読み終わるのを見計らって、ガキんちょが次の葉を渡してくる。
「わた、し、は、ぷらんと、です」
「ふぁるん~」
「あなたの、なまえ、をおしえて、くだ、さい」
 ガキんちょの顔を見ると、満足げに笑ってこくこくを頷いている。
「……名前を知りたいのか?」
「ふにゅ~ん」
「俺の名前でいいのか?」
「ふぁらふぁらふぁらり~ん」
 壊れた首振り人形みたいに何度も何度も頷くので、とりあえずガキんちょの首の動きを手で止めてから「教えるよ」と声を張った。
「俺の名前は{sei}{mei}。{adana}、でいいや。覚えられるか?」
「ふぁるーん」
「お前、文字は書けるのにしゃべれないんだな」
「ううーん」
 しょんぼりするガキんちょ……もとい『プラント』の頭をなでで「気にするな」と声をかけた。
「生後数時間にしては上出来だよ。それに、文字が書けるなら意思の疎通も出来るしな!」
「ふぁるーん」
 得意げに胸を張るプラント。
 やっぱり、こいつには感情がある。
 俺の言葉を理解する知能もある。
(俺が守らないと……)
 幸い、俺はこのアパートに一人暮らしだし、家族は田舎にいてこっちに出てくることはほとんどない。
 部屋を行き来する友達もいないし、彼女もいないし、こいつをこっそり育てる環境は十分揃ってる。
「誰にも渡さないからな」
 草の混じった髪を撫でると、プラントは気持ちよさそうに目を閉じた。
 こうして、俺とプラントの奇妙な共同生活が始まった。