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■ストーリータイトル■

夾竹桃恋歌



■ストーリー概要■

時は大正。
仁(しのぶ)と撮影所の見学に来ていた透子(とうこ_あなた)はお互いに一目惚れをする。
しかし、仁はたかが活動写真の俳優。
透子は旧公家で現華族の令嬢、しかも幼馴染の婚約者が居た。
二人は出会ってはいけなかった。
しかし、出会い恋に落ちてしまった。
立場上、滅多に会えない二人は透子の友人を介して交友を深めていく。

もしばれたらと言う背徳感、しかし募る想いには抗えず
二人は罪を重ねていく……



■プロローグ■

ぼんやりと、只流れていくだけの風景を、何の気も無く眺めていた。
否、流れて行く風景を瞳に写しているという方が正しいかもしれない。
色も、音も、必要最低限でしか感じられない僕は撮影場に居ても、自身の出番が無いとき、邪魔にならない場所で動く人々を瞳に写す。
所詮、全ては虚像に過ぎなくても、もしかしたら、届く色が、音が、あるかもしれない。
そう、いつも思っていたんだ。

「君を主役に、活動写真を撮りたいんだ」
芝居小屋での僕を見て、手を伸ばしてくれた監督。
少しだけ、鮮やかになった色と音。
周囲の反対を押し切って、僕は監督の手を掴んだ。
活動写真の世界に入ったら、もっと鮮やかに色と音が入ってくるかも知れない。
ただ、それだけの為に。
「それも結局、一度の幻、だったけど」
呟いて、自嘲する。
今日は少し、いつもと違う。
どこが違うかなんてわからない、けれど違う気がして。
「この、花のせいかな?」
手にしていた桃色の花に視線を走らせる……確か夾竹桃といっただろうか?
小道具だからと手渡されて、つい持ってきてしまった。
「そろそろ撮影も再開だろうし、戻るか」
手持無沙汰に、手の中で夾竹桃を遊びながら撮影隊を探していると少しの騒がしさと、通常とは少し違う雰囲気を感じた。
騒がしさの中心は何処かと目を走らせる。
ほどなく入ってきたのは……
「あれは確か……片桐屋の娘?」
何時ものように、使いの者に付いて来たという感じではない。
「あっ……」
片桐屋の娘の隣に鮮烈な色を放つ少女が居た。
けれど、醸し出している雰囲気は片桐屋の娘よりもはるかに上で、僕とは住む世界が違う、そう瞬時に理解した。
「折角、色と音を届けてくれる人が見つかったと思ったのに……」
手を、伸ばせない。
だからこそ、余計に焦がれ欲したのかもしれない。
世界が急に色を持って、流れるだけだった音が耳に届いて声になる。
こんな感覚、僕は知らない。

眺めていると刹那、交わる視線。
どちらが先に動いていたかは問題じゃないんだ。
「やっと、みつけた」
そう、呟いた声さえも。
手を伸ばせないから、余計に焦がれたのかもしれない。

「こんにちは、愛らしいお嬢様方……今日は見学ですか?」
気が付けば、声を掛けていて、手に持っていた夾竹桃を差し出している僕が居た……