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■ストーリータイトル■
にゃらは闇が好き



■ストーリー概要■

 旧世界の支配者階層でありながら、歴史から忽然と姿を消したグレートオールドワン。その隷属階級である「深き者」たちは人類に溶け込んでいた。しかし暗き血が呼び合うためなのか、陰の気渦巻く印須磨浦の地に「深き者」たちは自然と集まり一種のコミュニテイを形成していた。
 舞台は印須磨浦町の離島に立地する、私立泥府湾学園。新入生である間工作(ユーザーキャラ)は、広大な学園で、一人彷徨っていた。迷い込んだのは旧校舎の奥にある謎の座敷牢と、いわくありげな台座。なぜ、こんなところにこんなものが……? 不思議に思った工作の目の前で、台座の上に一人の美少女が現れる。彼女はゆっくりと目を開け、工作のことを「創造主様」と呼んだ――。



■プロローグ■

「また同じ場所……」

 もう何度、この奇怪にねじくれた巨木を見たことだろう。
 日没はとっくに過ぎていた。{sei}{mei}は、既に一時間以上も道に迷っているのだった。

 といっても。
 この場所は、初めて訪れた異郷の地でもなければ、人類未踏のジャングルでもない。
 {mei}が毎日通っている……学校の中なのだ。
 
 ――泥府湾学園。

 主な産業は漁業だけ。近代化から見捨てられたような、ここ印須磨浦市の離島に立地する全寮制の私立学校である。
 学校としての創立は明治時代ということになっていた。しかし、実際はそれより遙か悠久の過去から、この地に何らかの建造物が存在していたことを、土地の者ならみんな知っている。もっとも、それがどの程度の歴史を持つのか、正確に答えられる人間はいなかった。

 今現在、{mei}が彷徨っているのは、その学校で最も古い建物、旧校舎の跡地。
 もとは海底から隆起したという噂のあるこの島だったが、学園の周りには、今では鬱蒼とした樹海が広がっている。昭和初頭に既に使われなくなった旧校舎は木々に侵食され、半分廃墟のような様相だが、屋根のある場所に来ると、{mei}はほっとした。

「焼却炉にゴミを捨てに来ただけで……どうしてこうなっちゃうんだろ……」

 そう、{mei}は極度の方向音痴なのだ。元々の素質(?)に加え、この学園ではどうも方向感覚が狂うようだ。入学してから日は浅いが、彼が遭難した回数は、片手に余る。

「……あ」

 頬にぴたり、と大きな水滴。雨だ。肌寒いと思っていたら、とうとう降り出してしまった。通り雨ならいいが、ここで夜を明かすことになったら……{mei}は憂鬱な気分になる。

 たとえばこんな時……、「彼女」がいたら、きっと別世界のように楽しいのかもしれない。

 {mei}の高校生活の目標の一つに、彼女を作るという密かな野望があった。

 近隣に学校の少ないこの地域では、学校の外との交流はあまりない。しかも全寮制のこの学園では、どうしても同じ校内で付き合う生徒が多くなる。「彼氏・彼女を作りやすい学校」という噂もあり、泥府湾学園は人気があるのだ。

 あまり他人には言ったことはないが、{mei}の好みのタイプは、髪が長くて目が大きくて、華奢な女の子。

(うちの学校、キレイ目の子は多いんだけど、みんなすごく大人っぽいっていうか――。俺的にはもっと可愛い感じがいいかな……。それで、ゴスロリ系の服とか似合ってたら……最高かも)


 とりとめなく考えた後、{mei}はため息をつく。そこには、少し自嘲的な響きを含んでいる。
 そう、もちろんそんなのは、理想の理想。妄想の域だ。
 だから――贅沢は言わない。せめて自分の趣味に付き合ってくれるような……そんな優しい子に出会えたらいい……。そんな程度で。

 泥府湾学園には、なぜか美男美女が多い。入学した当初は、クラスがまるで芸能事務所のようで、びっくりしたくらいだった。友人はすぐに出来たが、残念ながら{mei}と付き合ってくれる女の子は、今のところいなかった。それは周りの友人にも知れ渡っている。たとえ外泊となっても、”不純異性交遊”を疑われるわけでもなく、

「また迷子ですか。体に発信機でも埋め込まないといけませんか?」

と、せいぜい寮長に嫌味を言われるのが関の山。

 もう一つため息をつき、旧校舎に入り、常備していたライトを点ける。実はこれも寮長の計らいだった。はっきりいって、{mei}は遭難に慣れている。


 内部は意外にも綺麗に保たれていたが、木や草があちらこちらから芽吹いていて、屋根を突き破っている物もある。
 雨で濡れた喜びを発しているのか、建物の中はむっとした植物と土の匂いで満ちている。
 人工物が緑に侵食されていく。人工物は抗うでもなく、屈するでもなく、自分でもそれと気づかぬうちに、時間を掛け、じわじわとその内部から侵されていく。

(こういう雰囲気……いいなあ……)

 しばし、仄暗い喜びに浸る。

(石造りだから崩れ落ちることはないだろう……多分。せっかくだから、ちょっと中を探検してみようかな)

 {mei}は吸い寄せられるように奥へと進んだ。


 ■□■□


 いつの間にか進んでいた廊下、ここには窓が全くなかった。まるで地下のようで、不気味な雰囲気があったが、{mei}はあまり気にしないで進んだ。廊下のどん詰まりに扉があった。

 学舎にそぐわないゴテゴテしたその装飾は、西洋的ともいえる。しかし、扉を開け、その中を照らした{mei}は、吃驚する。

「座敷牢……?」

 床こそ石畳だが、煤けた朱色の木枠は、時代劇などで見た檻にも似て、淫靡ともいえる姿を浮かび上がらせている。
 木枠の向こうには石でできた台座。その上には、明らかに台座と材質の違う何かが載っている。

「何だろう」

 よく見てみたいが、檻が邪魔だ。これ、開かないかなと、{mei}が木枠に手を掛けた瞬間――。

「わっ!」

 突然、ザーッと大きな音を立て、木枠は崩れ落ちる。足元にさらさらした朱色の山が積もった。
 
「ふー、びっくりした……」

 まだ心臓がどきどきしている。
 {mei}は不安を消すようにあえて一人呟く。

「何だったんだ、これ。腐ってたのかな」

 あらためて、自分が誰もいない旧校舎、まわりが石に覆われた室内にいることに思い至る。

(こんなところで地震でもあったら、俺、一巻の終わりだよな……)

 しかし不可思議な現象も、押しつぶされそうな恐怖も、好奇心の前に薄れていく。
 台座の前に立ち、載っているもの――何かのカタマリに光を当てる。

 石作りの台座の方は、ちょうどベッドくらいの大きさだった。それだけなら遺跡などにある棺に似ている。しかし、その上に何かがのっているのが、どうもちぐはぐな感じだった。なにかのカタマリが、まるで高熱で溶けたガラスのように、鈍い光を湛えている。

 {mei}は、その丸みを帯びたフォルムの何物かに、そっと触れてみた。
 ひやっとしたのは一瞬。硬さはあるものの、明らかに石とは違う質感。滑らかな感触。

 これは――これは一体なんだろう?

 {mei}が指を滑らすと、小さな痛みが指先に走った。
 
「――たっ!」

 {mei}の血がカタマリを濡らす。傷は小さいが意外なほど血が溢れ、台座から滴り落ちるほどだった。

(棘でもあったかな? うええ、ケガなんて久しぶりだ……)


 不思議に思いつつも、血の苦手な{mei}は、顔をしかめる。――と、先ほどまでは台座にくっついていたかに見えたカタマリが、もぞもぞと動き出した。

「あっ……?」

(気のせい? さっきは確かに、ただの――なんだろう、あれは――とにかく、ただのカタマリだった)

しかし、もう間違えようが無い。

(このカタマリは……生きている!)


 そう思った時、それは、何かの形を取り始めた。
 硬かったはずの物質がまるで粘土のように柔らかく蠢き、細かな造詣を自動的に刻んでいく。まるで魔法のような光景に、{mei}の方が、石のように固まってしまう。
 
 そして現れたのは――。手足を丸め、横になった……少女。

 少女はゆっくりと上体を起こし、台座に腰掛けて、足を投げ出し、目を開ける。
 子供のようにあどけない表情。そして、その容姿といえば……白くすっと伸びた手足、細い首筋。長い髪。
 信じられないことに、{mei}が夢に描いた理想の女の子の姿をしているのだ。服装までがふりふりのレースまみれである。しかし、{mei}を見つめるその瞳だけは――吸い込まれるような深淵を映す。
 
 目を逸らすこともできず、{mei}はごくり、と唾を飲み込む。
 少女は{mei}の手を取った。
 
「君は……」
 
 少女は語り掛ける{mei}の目を真っ直ぐに見つめ、まだ血の止まらない指を口に持っていき――、がりっと噛んだ。

「んぎっ!」

 思わず叫んだ{mei}の頭の中に、はっきりとした、言葉が響く。
 
「創造主様……」

 確かにそう聞こえた後、少女はにっこりと微笑んだ――。