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■ストーリータイトル■
混沌の海を泳げ



■ストーリー概要■

 ようこそ、北部魔法学院へ!

 本校はシーカティア魔法学院の名門男子校として、各業界トップクラスの人材を代々輩出しています。しかし、難しい編入試験などは一切ありません。少人数体制によるきめ細かい学習指導と、手厚い補習によって、確かな実力養成をはかっているのです。

 もちろん、本校の魅力はそれだけではありません。生活指導、行事、部活動から寮生活にいたるまで、生徒たち自身による自治が行われています。自由な校風のなか、先輩たちが後輩の面倒をしっかり見てあげるという伝統が培われております。

 また、本校は全寮制となりますが、最新鋭の結界システムにより、防犯・安全対策も施されていますから、一日中安心して学校生活を送ることができます。

 悔いの残らない青春時代を、君も、僕たちといっしょに過ごしてみませんか?

                   北部魔法学院執行部長 アレン=イェンダーノ

                       ~北部魔法学院・学校案内より抜粋~



■プロローグ■

「はぁ……やっと……着、いた……?」


 見る者を圧倒する、森の中の要塞と見まがうような外壁。内部へと続くその入り口までは、この場所から、一本の石造りの橋でつながっている。あとはこの橋を渡るだけだ。しかし、この橋が……長い! 

 魔法都市シーカティアが誇る名門、北部魔法学院の入口に、俺は立っている。今日からはあそこが、俺の……我が家となる。そう、とある事情により、俺は全寮制のこの男子校に編入してきたのだ。


「はぁ、はぁ、まだ、これを渡るのか……さすがの俺も、キツイな、これ……」


 俺は生まれつき魔法が得意でなく、それをカバーするために、自分なりにいろいろ努力してきた。だから体力には自信があったが、元の家からここまで来るのに一切の魔法も精霊も無しだったため(よーするに、家財道具を全部背負って歩いてきたわけで――)、限界が近づいてきていた。……だが、なに、あとひとふんばりだ。


「……よし、行くか」


 呼吸が落ち着くのを待って、俺は歩きだした。橋の下は……目もくらむような谷になっている。落ちたら恐ろしいというよりは……、泳いだら気持ちがいいだろうな、なんてことを考える。



「君」


 ――えっ? 今、誰か……。

「本日付けで転院予定の、$名=$姓君、ですね」

 目の前に黒っぽい影が現れ、その中から声がする。なんだろう、こんな魔法見たことないけど……。


「こちらは北部魔法学院執務室です。僕は執行部長のアレン=イェンダーノ。どうぞよろしく」

「あ……はい、よろしく……」

 執行部長というのは、前の学校でいう生徒会長のようなものだろうか。聞こえてくるこの声……なんだか、とても優しい。それにこの影……、初めはびっくりしたけど、世の中は広いし、こういう魔法もあるんだろうな。興味深そうに見る俺の周りを、影がくるくると回る。


「大荷物のようですね、ガルダや浮遊術は使わなかったのですか?」

「あ、はい。俺……そういうの、ちょっと……」

「……? そうですか。でも、大変お疲れの様子ですから、ぜひ、その、僕の精霊を使ってください」

「――この黒いの……? これも、精霊、なんですか」

「ええ、そうですよ。少し変わってますけどね」

 これで移動できるのか? た、助かった~……。いや、ホントは限界だったんだもの……はは、俺も、いい加減だな――。

「どうすればいいんですか?」

「そのままその影に入ればいいんですよ」

 心底くたくただった俺は、その声に素直に従った――。鉛のようになった足を一歩踏み出し影に身を任せる。その途端……目の前が暗転……そして、チカチカッと明かりが煌めく。……まるで、まるで体がバラバラになるような……


 ――――
 ――――
 ――

「……」

「……君……」

「$姓君!」


「――!!」


 ――ここは……?


「……気が付きましたか」 


 目の前には、微笑みを浮かべた一人の男子生徒。あれっ、俺は――?

「びっくりしましたよ、何の疑いもなく僕の精霊に入り込んだ人は初めてですから……でも、無事でよかった」

「……?」


 ……ああ、この声。たしか生徒会長の……じゃなくて、なんだっけ? 俺は、朦朧とする頭に響く、深みのある声にぼんやりと反応する。

「あんた……ア、レン=イェンダーノ……」

「おや、もう覚えてくれたのですか。光栄です。それでは記憶の方も大丈夫ですね」


 もともと笑っている顔がさらに嬉しそうに……。はは、なんだか知らないけど、良かった……。でも、無事だとか……大丈夫だとか……あれ?


「君に迷いがなかったのが逆によかったみたいですね。実はキチンと人間を運べたのは、これが初めてだったのですよ。君のおかげで、僕にも自分の理論に自信がわきました。本当に、ありがとうございます」


 「どう、いたし……」


 ……人間? ……運ぶ? なんだっけ、俺……ここ……どこだ……

「ふふ、いいですよ、そのままで。ところで君は……」

 ――……。……?

「……すみません。僕の――勘違いです」

 ……なに? 何が――?

「……それにしても、$姓君は、類まれなる素直な性質を持っているんですね。未知の魔法や精霊に身を任せるまでの反応速度が……いや、まあ、それはいいでしょう。ともあれ――、北部魔法学院にようこそ……」

 ――ここは、ああ、そうか、俺、学院の……。やっと、着いたんだ……。

 安心した俺は再び気を失う。


 ――こうして、俺の学院生活は、イェンダーノ先輩の腕の中で、幕を開けた――